〜視点〜

東日本大震災からの教訓
BCM(事業継続マネジメント)に関心を持て




東日本大震災ではマグニチュード9.0 という巨大地震による震災被害もさることながら、その後に太平洋沿岸地域で発生した大津波による被害が大規模なものとなった。さらに、東京電力福島第一原発は地震と津波によって冷却機能が失われ、圧力容器の損壊によって大規模な放射能漏れ事故が発生。事態収束へ向けての対策が継続的に行われてはいるが、放射線による周辺地域や海洋汚染が大きな問題となっている。
また、東京電力・東北電力管内では、原発をはじめとした発電施設が甚大な被害を受け、需要電力量を供給電力量でまかないきれない深刻な事態となっており、計画停電が実施され、夏場には電力供給の総量規制が計画されている。このため、東北・関東・甲信越地域の工場では生産に深刻な影響が懸念されている。また、被災によって一部の半導体やマイコン、基板、あるいはケーブル、オイルシール、ベアリングといった部品の調達にも影響が生じ、日本国内はもとより世界中で部品供給が止まり、生産が滞る深刻な事態も生じている。
被災した工場も徐々に復旧し、生産を再開するようになって、部品の供給不足は次第に改善されつつある。とはいえ、東京電力・東北電力管内で被災した発電設備は短期間に修復できるものではなく、廃炉が決まった福島第一原発の発電量をまかなえる発電所の新規立地の可能性も低く、電力供給不足は今後2年以上にわたって続くことが想定されている。このため大口電力を使う工場では自家発電装置や大型蓄電装置の導入を計画するところが増えている。しかし、1,000kVA クラスの大型ガスタービン発電機などは、注文しても納品までに1年以上を要するとされており、今夏の電力不足対策としては間に合わない。こうした日本のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の危機によって、製造業の海外シフトが加速している。すでに国内一極生産・購買を改め、海外調達を決めたり、海外工場間で相互に部材の供給補完体制を整備したりする大手企業の取り組みが目立ってきており、SCM のグローバル化がさらに進んでいる。
そうした中で産業界では改めて、BCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)に関心が集まっている。BC(事業継続)に関して、日本では従来から、“ 防災” という観点で緊急時の対策を検討することが叫ばれていた。2000年代半ばになってからは行政もこれに着目し、BCに関するガイドラインが関係各省から示されるようになった。2005年3月には経済産業省より「事業継続計画策定ガイドライン」が発表され、続いて同8月に経営層向けに内閣府中央防災会議より「事業継続ガイドライン第一版」が、同10月にはこれを補足する「事業継続計画の文書構成モデル例 第一版」が発表された。2006年2月には中小企業庁より「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」が発表されている。
欧米でBCM というと“ 防災”の視点もさることながら、企業が極めて困難かつ予期せぬ状況下にあっても、従業員を守り、企業価値、評価を失わず、ビジネスライセンスを維持しながら事業継続を可能にする“ 危機管理” が評価されている。今回のような震災や原発事故でも“ 防災”だけでなく物流、SCMが混乱する中で予期せぬ事態に対応する“危機管理”という観点で、BCMの必要性を考えようとする経営者が増えている。
大手発注元がBCMの観点で、部材調達のグローバル化や2社購買によるリスク分散を考慮した調達を検討している中で、板金サプライヤーもBCM/BCPに積極的に取り組むことが求められている。