〜視点〜

大震災と原発事故からの教訓




3月11日に発生した東日本大震災は、マグニチュード9.0という史上最大級の激震であったことと、地震発生後まもなく発生した大津波が重なったことで、岩手県、宮城県の三陸沿岸から福島県、茨城県、千葉県の太平洋沿岸地域に甚大な被害をもたらした。
日を追うごとに明らかになる震災・津波被害の大きさには、ただ驚くばかりである。しかも、津波によって東京電力・福島第一原子力発電所の1号機から4号機までの原子炉施設が大きく損傷し、冷却機能が停止したことで、高濃度の放射線漏れが発生。被曝の可能性が想定される半径30km圏内の住民は、政府から避難勧告や屋内退避を指示されている。世界的に見ても1986年に発生したチェルノブイリ原発事故以来の大規模な原発事故になっている。
震災と大津波による被災と原発事故の影響で、GDPの約7%を占める東北6県と茨城県の経済活動は根底から揺るがされている。さらに、この地域で生産設備にダメージを受けたサプライヤーも多く、メーカーへの部品供給が滞っている。生産再開の目途が立たない企業が多い中で、少なくとも一定の回復には6月いっぱいまで、地震発生から3カ月程度を要するのは間違いない。もちろん、この予測は原発事故が収束に向かうことが前提であり、この事故がさらなる大規模災害へとつながれば、東北6県と茨城県の産業が壊滅的な打撃を受けることは避けられないだろう。
さらに、震災以上の激震となって日本を襲っているのが、社会インフラの混乱による「エネルギーショック」である。原発に対する信頼が失墜したことで、今後は原発の新規立地が難しくなるだけでなく、現在稼働中の原発も耐震基準の見直しなどで一時的に停止して、点検・補修が行われる可能性が高い。日本は電気エネルギーの約1/3を原子力発電に頼っており、原発の稼働や立地に問題が生じれば、一気に電力供給不足に陥る可能性がある。すでに、3月14日から東京電力が実施している計画停電で、関東圏の社会生活は大きな影響を受けているが、電力消費量がピークとなる夏場には電力供給不足から7〜9月には節電対策が実施される。このことにより、企業の生産計画は大きく変わらざるを得なくなる。また、これが契機となり化石燃料に対する需要が高まり、石油や液化天然ガスなどの価格がさらに高騰するのも避けられない。
このパラダイムシフトに対応するために、我々は何をしなければならないのか。1972年に民間のシンクタンク「ローマクラブ」は、「現在のまま人口増加や環境破壊が進めば、資源はあと20年で枯渇する」「100年以内に人類の成長は限界に達する」と警鐘を鳴らす『成長の限界』レポートを発表した。さいわい、環境改善や代替エネルギーの開発が進み、資源の枯渇という最悪の事態は免れてきたが、代替エネルギーの代表格である原子力発電の安全神話が崩れることで、改めてエネルギーは無尽蔵にあるという考えを捨て、化石燃料や原子力に頼らず、限りある資源を有効活用するエコ社会の実現を目指す必要性が高まってきている。そのためには、我々1人ひとりがエコ社会をいかに実現するかを考えなければならない。そういう意味で、被災された方々には大変申し訳ないが、今回の震災と津波、原発事故は、日本人に対する戒めと試練と受け止めることも必要なのかもしれない。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」は許されない。今こそ、限りある資源をどのように使っていくか、考える時である。

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