〜視点〜

地震、工業製品のデフレ、食料・資源のインフレで世界経済の不安連鎖が進む?




3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、東北の太平洋沿岸地域に甚大な被害を与えた。震災被害に遭われた方々や地域の1日も早い復興を願っています。
地震と津波によって東京電力福島第1原発の1〜4号原子炉が被災、この原稿を執筆している最中にも火災発生や爆発などによって、原子炉の大規模事故にいたる危険性が増している。こうした日本経済の基盤に対する不安から、株価は大幅に下落、世界経済にも大きな影響を与えている。また、原発に対する不安が先行することで石油、液化天然ガスなどの市場価格が一層高騰する懸念も出ている。
世界的に激しい資源の争奪戦が起ころうとしている。チュニジア、エジプト、バーレーン、リビア、イエメンなど中東諸国の政情不安で原油価格が上昇し、それに連動して石炭・鉄鋼石などの資源価格が高騰。さらに、IT製品には欠かせない「レアメタル」と呼ばれる希少金属の価格も高騰し、入手さえも困難になろうとしている。
その一方で、世界的な天候不順や、口蹄疫・鳥インフルエンザなどの世界的流行も影響して、食料品価格が上昇している。
エジプトの政権交代のきっかけは、食料品価格の高騰。低所得者層を中心に、政権への不満が爆発し、ムバラク大統領が辞任する事態となった。その後のイエメン、バーレーンも根底には同じような背景があるといわれている。インド、ブラジルなどの新興国市場でも食料品価格の高騰がインフレを加速している。
そこに資源価格上昇が追い討ちをかけ、インフレ率は2桁に上昇。各国政府は、インフレ防止を目指して金融引き締めなどの経済対策を実施し、それによって企業では資金需要が逼迫、資金繰りがショートするなど企業活動にも影響を与え、経済不安の連鎖を生んでいる。
食料・資源の高騰は、世界の投機家にとって見逃せないチャンスでもある。世界中の投機マネーが商品取引市場に流れ込み、食料・資源ファンドが続々と誕生して いるという。特に昨年11月に行われた、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)による米国債6,000億ドルの購入という追加的金融緩和で垂れ流された米ドルが、こうした投機資金に流れ込んでいるとも言われている。フランスで2月に開催された20カ国・地域(G20)蔵相・中央銀行総裁会議では、食料品価格の高騰に歯止めをかけることが重要という声明を発表し、サルコジ仏大統領は食料に対する投機を規制する考え方を明らかにした。
食料・資源など、これまでふんだんに流通していると思われていた商品が高騰する一方で、これまで希少と考えられていた工業製品──家電・車などのデフレには歯止めがかからず、コモディティ化がますます進んでいる。そして、デフレ防止対策として、アメリカ政府が打ち出した追加金融措置によって、量的に緩和された大量の米ドルが投機資金として食料・資源の商品市場に流入し、食料・資源のインフレを招いている。希少価値のあった工業製品のデフレが食料・資源のインフレを生じさせるというパラドクスによって、世界は大きく揺らいでいる。
板金業界でも、これからは材料価格が高騰し、その一方で、工業製品に使われる板金製品の価格破壊がますます進み、企業収益が圧迫されていくと見られる。 材料比率の引き下げを進めるためにも付加価値向上が求められ、部品加工からセット・キット・モジュールでの受注へとシフトし、最終的にはOEMメーカーとして設計まで取り込んだ形態を目指す企業が増えると考えられる。
地震、原発、工業製品のデフレ、食料・資源価格のインフレは、世界経済の不安の連鎖を生む。改めて2011年は厳しい選択の年になることを覚悟しなければならない。