〜視点〜

消費者に近いところでイメージを商品に変える板金加工




昨年後半は、JIMTOF2010(東京)、IMTS2010(シカゴ)、EuroBLECH2010(ハノーバー)と相次いで国際的な工作機械・板金機械の見本市が開催された。中国・インド・ブラジルなど新興国の急速な経済発展に伴う社会インフラ投資が拡大、建設機械、鉄道など関連産業が活発な動きを示す一方、所得水準が上がることで個人消費が拡大する高度成長のサクセス・スパイラルができ上がっている。新興国で拡大するボリュームゾーンに世界の企業はこぞって激しい売込みを行い、その関連でリーマンショックで疲弊していた世界経済に活気が戻り始めている。板金機械の世界最大の見本市、EuroBLECHでは開催国であるドイツ経済がユーロ安も味方して輸出増大によって、1992年以来の経済成長を続けており、板金関連の工場を訪問しても、ほぼ24時間のフル稼働が続いていた。1年前に訪問した当時はピーク比60%の稼働率しかなった工場が、今ではフル稼働し新たな設備の導入も検討中という話を聞き、その回復ぶりに驚いた。
訪問したある工場もPro/E、SolidWorksといった3次元CADを活用し、設計から加工までを一貫で受注、需要が拡大する医療機械やチャイルドシートなど、年産1万5,000台あまりをOEM生産していた。多品種少量・変種変量生産ラインから、中量生産ライン、プレスによる量産ラインと異なる3ラインを組合せ、設計・試作・量産までを幅広く受注することで業績を伸ばしている。そんな姿を見るにつけ板金加工のすばらしさを再発見した。
同社ではマシニングセンタやNC旋盤などの機械加工設備も導入し、OEM商品に組み込む部品加工を内製化している。しかし、付加価値がありアドバンテージがあるのは同社の設計一体となった板金加工。ボックス、カバーをはじめとして製品のデザインをカタチにするのが板金加工であり、意匠=デザイン性を考慮した加工ができる能力を備えている。マシニングや旋盤加工された部品は加工後に焼入れや仕上げ研摩が施されるため、どこまで行っても部品加工で、大きな付加価値を生む工程ではない。それに対し、板金は加工・組立・塗装・シルク印刷までを一貫受注することで加工が終了すれば、即、製品として出荷される。機械加工と板金加工の違いを一言で語れば、前者はどこまでも部品加工であり、後者は製品(商品)の製作であり付加価値や設計とのコラボレーション視点で考えると板金は、消費者に近いところで付加価値の高いモノづくりをしているということになる。それが同社の強みであり、設計部門とのコラボレーション環境が構築できるからこそ、OEM受注にも成功している。それだけに板金は個別の消費者ニーズに対応して製品化ができる数少ない加工技術であるということがよく理解できる。また、デザイナーのデザインコンセプト、イメージをいち早く形に変えることができる加工技術でもあり、多様化する消費者のニーズに対応するためには欠くことのできない技術であるとも言える。振り返って最近、板金業界を歩くとパーツ単位の受注対応をしている企業の経営者から「加工費の削減により利益率が大幅に低下、価格競争の激化で体力勝負になっている。付加価値を残すためにはセット受注に対応した能力を備えてないと生き残れない」という悲痛な声をお聞きする。それだけに板金加工の旨味は設計までを巻き込んだセット受注に対応できる能力を備え、消費者の要望をいち早く形に変えることができる技術力を備えることが必要ということが分かってきている。これからの板金市場の伸びしろは究極の多品種少量、変種変量生産が進めば進むほど拡大する可能性が高く、将来に明るい未来が拡がっていることも分かる。市場創造を行うためにも、消費者により近いところでイメージをカタチに変えられる板金加工の特性を強く意識し、提案営業を進めていくことが業界に求められている。