〜視点〜

円高・株安でサプライヤーの選択と集中が加速




最近発表される経済指標を見ると、円高とそれを嫌気した株価低迷の影響を受け、明らかに民間企業の設備投資意欲が落ち込んできている。また、地方を中心に鉱工業生産の伸びにも鈍化が見られ、外需―とりわけ中国経済の活況を受けて回復の兆しを見せていた景気も踊り場を迎えている。このままでは2010年度下期の経済成長は上期に比べて大きく落ち込むことが懸念される。
何よりも心配なのが、大手企業が円高を回避するために地産地消にシフトし、需要のある海外での生産を強化する傾向が強まり、国内産業の空洞化が強まることだ。たとえば需要の回復が著しい建設機械業界を見るとH社は、国内3工場での生産比率が33%だが国内需要は6%。国内生産された建機の80%近くが輸出されている。そこで、同社では現在、生産比率45%の中国、16%のインド、インドネシアでの生産比率拡大を計画。基幹部品であるエンジン、油圧機器は国内で生産・調達するものの、板金部材を含む大半の加工品の生産・組立は中国で行う可能性が高い。
(社)日本建設機械工業会が8月24日に行った2010年度の建機需要予測に関する記者会見で、野路國夫会長(コマツ代表取締役社長兼CEO)は自社の事例を引き合いに出しながら、「中国工場ではエンジン、油圧機器などのキーコンポーネントを中心に30%の部材を日本から調達している。板金部材を含む70%は現地で調達しており、その50%を現地に進出した日系サプライヤー、残りの50%をローカルベンダーから調達している」と明らかにし、「今後は日系サプライヤーとロ−カルベンダーとの間で競争が激化し、国内生産は伸びない。この影響を受けるのは中小のサプライヤー。国内工場の生産が伸びない中で日本の中小サプライヤー、国内工場の雇用をどのように確保するかが大きな課題」と語っている。円の独歩高が是正されるまでは中小製造業者を取り巻く環境が大きく変わる可能性は小さく、海外へ出て行く仕事を追いかけるのか、日本に残る仕事を追いかけるのか、いずれにしても中小製造業者にとっては厳しい状況。その中で、ヒントとなるのが野路社長の次のコメント。「日本、ドイツには開発に関わる優秀な技術力を持った企業が多くある。これが中国との違い。5〜10年後に技術力で20〜30%のコストダウン、付加価値を付けることで競争に勝たなければならない」。
国内で開発・試作のエンジニアリングを手がける大手企業の製造部長は「円高で20〜30%のコストダウン効果が消え、このままでは日本からモノづくりが消えてしまう。一層のコストダウンを行うためにはサプライヤーとWin-Win連携を構築する必要がある。そのためには購買部門だけではなく、生産技術部門、品質管理部門、設計部門などでサプライヤーを評価し、継続取引を行う中でともにコストダウンを目指す必要がある」。また、ある企業の調達部門の責任者は「サプライヤーの評価基準は過去はQ,C,D(品質・コスト・納期)だったが、それに“+D”(Development:不良率低減・生産効率化のために工程を改善する開発力)あるいは“+M”(Management:経営の安定性)が加わった。そして現在は“+C”(CSR:CorporateSocial Responsibility:社会的な責任)、“+E”(Ecology:環境負荷低減)と評価基準が増加している」と語る。
こうした発言に見られるように、大手企業は明らかにサプライヤーの選択と集中を強化してきている。政治が膠着し、強いリーダーシップのないままに日本経済の戦略も見えない中で自助努力による勝ち残りがますます必要となっている。