〜視点〜

朝が来ない夜はない“ALL JAPAN”の発想が大切




夏休み、時間に任せて雑読三昧の生活をした。ビジネス・経済書から対談集、小説、童話までジャンルを問わず読んだ。その中で得られたものは、リーマンショック後の中小製造業が置かれた厳しい現実と、その彼岸にある中国経済の渦に巻き込まれながらも、そこから脱却して世界で生き残るには経営者の人一倍の努力が必要だという確信だった。
「朝が来ない夜はない。日はまた昇る」という言葉があるが、胸の中では、日本の中小製造業にも夜が明けて朝がやって来るのか、日はまた昇るのか、という不安にも苛まれた。事業でも人生でも、良いことも悪いことも永遠に続くものではないと頭では分かっていても、日本の中小製造業者にとって今という時代はそれほどに先が見通せない。
読んだ小説の中に、日本の中小製造業の状況を象徴するストーリーがあった。大田区の螺子製造の経営者がリーマンショック前の好景気を背景に受注競争に勝ち残るため、高額な設備投資を計画した。しかし、同社の財務内容では設備導入の資金を銀行から借り入れることができない。ところが取引先銀行の支店担当者は支店長と相談してバランスシートを改ざん、審査をパスさせて貸付を行う。その借入金で会社は高額な工作機械を導入、合理化と増産体制を整えることができた。支店担当者も銀行内の貸付競争で他店に勝つためには、無理を承知で違法貸付に手を染め、成績を上げる必要があった。ところがリーマンショックで思惑が外れ仕事が急減、借金返済は滞り、銀行内では違法貸付が問題になり始める。そこで、滞る返済や違法貸付問題をネグレクトするため、銀行員は自分の子供を会社経営者に誘拐させ身代金を銀行に要求する筋立を考え、実行する。
小説ならではの極端な題材かもしれないが、似たような現実が中小製造業者の周りに散在していたのも事実である。
リーマンショック前には「この景気はしばらく続くので協力工場は増産体制を自助努力で行ってほしい」と要請しておきながら、リーマンショック後に仕事が激減するや否や、発注元は自社の雇用確保と操業維持のために、外注に出していた仕事を引き上げ、内製化を行った。自助努力で増産投資をした上に、限られた仕事まで引き上げられ、目の前が真っ暗になったという中小製造業者は数知れない。
朝の来ない夜はなくとも、夜明け前が一番暗いのも事実。朝が来たと思って窓を開けたら真っ暗だったという経験のある方も多いだろうが、夜明け前の闇夜は暗い。それだけに経営者は状況を読み取る見識を備え、不測の事態に備える努力を怠らず、発注元の要請だけで企業にとって諸刃の剣ともなる設備投資計画を安易に進めるべきではない。
いつまでも1社依存のオンリーで、親子関係だけで事業継続を考えていたのでは世界で生き残ることはできない。中小製造業者も発注元とイコールパートナーとなって勝ち残りを考える時期が来ている。さらにこれからは、日本が世界の中で勝ち残るために何をしなければいけないか、という“ALL JAPAN”の発想を持つことが何よりも重要となっている。
この夏休みで英気を養い、充電もたっぷりできた。日本の板金業界に日がまた昇るよう、改めてパラダイムシフト―変化する板金業界の実態を捉え、これからの板金モノづくりの動向を追いかけていきたい。