〜視点〜

日本企業は開発・創造型を目指せ




最近は、取材に訪れる企業の2社に1社の割合で、発注元の海外移転や人口減少によって国内市場が収縮するという不安から、「ボリュームゾーンである中国・インドなどの新興市場に生まれる仕事を獲得するため、シフトグローバルを検討しなければならない」という話を聞く。以前であればリスクが大きすぎて海外進出など考えもしなかった中小製造業の経営者も、発注元がサプライヤーを集めて定期的に行う部材調達に関する定例会の席で、「国内向けの生産は戻っても7〜8割。中国市場はこれからも増産」と聞かされれば、リスクはあってもシフトグローバルを検討せざるを得ない。
一方、経済成長が続く中国では、進出した外資系企業の移転価格を巡って、中国の税務当局が減益となった理由と顛末の証明を要求するケースが増えている。特にリーマンショック以降は日本の本社も大幅な減収減益に陥り、中国法人の利益を圧縮してでも日本に利益還元しないと本社の赤字を吸収できない、と経営者は考える。しかし、中国法人である以上、中国で法人税を払って中国に貢献すべき、と中国当局が考えるのは自明の理。そこで、移転価格として計上されるエンジニアリングフィーや役務契約に基づき、日本に支払う費用の妥当性を厳しくチェックするようになった。人件費だけを考えた生産移転だけでは、税務当局に対して中国法人の赤字を証明できなくなる事態も現れている。 言うなれば、「赤字の外資系企業は中国から出て行きなさい」という流れとなっている。
また、広東省・深では7月1日から最低賃金が特区外で20%、特区内で10%アップした。また、材料価格も20%以上上昇し、経営を大きく圧迫し始めている。こうした環境下で人的資源の少ない中小製造業が中国へ進出するのはやはり大きなリスクを伴う。
さらに中国では、日本で留学生・研修生として技術・技能を磨いてから帰国し、出資者を募って製造業に参入する30代の若手起業家も増えている。日本品質のモノづくりで日系企業をキャッチアップしてくる企業も後を絶たない。こうした企業では従業員の引き抜きも日常茶飯事。時間をかけて技術・技能を教育した社員が他所の企業にスカウトされるケースも目立っている。その結果として生じる、技術流出による利益損失にも注意を払う必要がある。
今は、そんなリスクを冒してまで中国へ進出することの是非をもっと考えなければならない。例えば、発注元のマザー工場とのコラボレーションエンジニアリングによって作成したデータを基に、中国のパートナー企業が生産するという関係を構築できれば、直接的なリスクの回避はできる。つまり、エンジニアリング力を備えた企業に勝ち残りの道が見えてくる。板金工場の経営者が考えなければならないのは、シフトグローバルという“変化”に対応する道が幾通りもあるということ。そして、いずれの道を選択するとしても、エンジニアリング力を備えていることが最も重要であるということである。サポートマニュファクチャリングとしての板金加工に精通するスキルドエンジニアの育成が求められている。
過日、中国へ進出している企業の経営者にお目にかかった際、その経営者が語った「世界の中でどう生きるか、世界の中で生き残るために日本企業は開発・創造型にシフトし、エンジニアリング力を備えていく必要がある。日本でエンジニアリングした結果のソフトを活用して世界中で最適地生産・最適地供給を行い、最適地販売を進めることが必要となっている」という言葉が強く印象に残っている。