〜視点〜

経営者の決断―
自らの城は自らの努力によってしか守ることはできない




ユーロ圏の南ヨーロッパ―ポルトガル・イタリア・アイルランド・ギリシャの4カ国にスペインを加えた5カ国の頭文字から取った「PIIGS」という活字が新聞紙面を賑わしている。アイルランド・ギリシャの金融不安に端を発したユーロ圏の経済危機は、ポルトガル・スペインにも飛び火してユーロの大幅安から世界的な株価の下落へと拡がっている。ニューヨーク・ロンドン・シンガポール・香港そして東京と、株価はこの1カ月で20%近く下がり、株価の時価総額の損失は600兆ドルにも達したと言われている。リーマンショック、ドバイショックと続いた経済危機は、底なしの泥沼に足を踏み入れようとしている。
ようやく景気回復への足掛かりを掴んだ日本経済だが、このユーロ安・円高は輸出企業にとって大きな痛手となっている。幸い、景気回復をリードしてきた新興国には、これまでのところ大きな影響は出ておらず、事態がこのまま推移すれば経済は土俵際で残り、緩やかにではあるが着実に景気回復の坂を上っていくと予測されている。その一方で企業間の業績の明暗はこれまで以上に鮮明となっており、「勝組vs負組」の構図がいっそう際立ってきている。前月号でも紹介したが、自らの企業が目指すべき「山」を見つけ、その頂をどの登り口から極めていけばいいのか、そのスタンスを決めるべき時が迫っている。
最近訪問した企業の経営者は一様に「今年は勝負の年。生き残るのではなく勝ち残るためにどうするかを考える」と語っている。これまで何度も書いているように、発注元、つまるところ最終消費者の要望は、世界市場で通用するQ,C,Dを備えた商品であり、それがどんな手段で、どこで製造されたかについては大きな問題ではなくなっている。世界のボリュームゾーンが人口40億人(世界総人口の約60%に相当)を占める新興市場に移った今、新興市場で売れる商品を最適調達することがメーカーにとっての大きな課題。板金業界は日本から出て行く仕事を追いかけるのか、日本に残り、日本でしかつくれない仕事を探し出すのか、選択を迫られている。
先日お目にかかった経営者は「中国の製造コストは日本の6掛け。そこで加工された部品・ユニットを日本に持ち込むと、関税や輸送費が加算されて8掛け程度までハネ上がる。それならば地産地消の論理で、その差の2割以上のコストダウンができるのであれば、少なくとも日本で必要とされたり、日本からデリバリーした方が手間がかからなかったりする製品や部材は日本に残る可能性が高い。お客さまが最適地調達とおっしゃっているので、2割以上のコストダウンを実現できれば日本に残る仕事はまだまだたくさんある」と語り、経営者が一縷の望みを託して語る「2割」の重さがよく分かった。
さらに最近は発注元の多くが日本の工場をマザー工場として、主要コンポーネントの製造から新製品の開発・試作・量産試作までをエンジニアリングした後、本格生産は海外拠点で行うケースが目立っている。いわばエンジニアリングされ、Q,C,Dがつくり込まれたデータさえでき上がれば、そのデータを使って生産するのは「地産地消」の論理で、どこで行われても構わないという生産改革が始まっている。はっきりしているのは、徹底的にエンジニアリングされ、適地生産・適地調達に対応できるデータのつくり込みが日本の板金企業に課せられてきている。板金工場の経営者は、自らの城は自らの努力によってしか守ることはできないということを改めて肝に命じ、これからの道を見極めることが今、求められている。