〜視点〜

企業が目指すべき“山”を確認する




アメリカ経済の回復や、好景気が持続する中国をはじめとした新興国の社会インフラ投資、消費拡大に支えられ日本経済も緩やかだが回復への歩みを一歩踏み出した。心配されていた景気の二番底懸念もなくなり、企業の設備投資意欲にも底堅いものが出てきた。中でもリコール問題などで先行き懸念が広がっていたトヨタ自動車の2009年度の営業利益が黒字に転化、2年連続の赤字がなくなったことを好感して、製造業にも明るさが戻り始めた。特に、ここへ来て顕著なのが半導体関連産業の急速な業績回復。これに対応して半導体製造装置業界も中国・台湾向けの輸出が好調で2011年いっぱいの受注に目途を付けたメーカーも現れ始めている。半導体製造装置関連の板金の仕事を受注している板金工場でも内示を含めれば年内から2011年半ばまでの生産枠いっぱいの仕事を受注する企業も出てきた。しかし、仕事量は出てきているものの、受注単価は2007年比では2〜3割は下がっており、利益率も同期して下がっている。さらに、サプライヤーの選別が厳しく行われ、Q,C,D対応力はむろんのこと、設計段階からの提案力や板金以外の部材調達能力・組立能力・現場での据付や施工能力など広範なアシスタント能力を備えたサプライヤーに仕事が集中する傾向が目立っている。そうした企業では単価が下がっても加工プロセス全般を請けることで、付加価値を高め収益性を改善している。お会いする経営者の方々の中には、ようやくゆとりが見え始めてきた。しかし、こうした企業は業界全体で見ればまだ僅か。半数以上の企業では受注量が2007年比で7割程度にしか戻っておらず、受注単価が下がったことを加味すれば売上はピークの半分程度となっている。
さらに設備投資が戻っているとはいえ、その多くは海外生産拠点の増設や新設であり、国内での設備投資は相変わらず低調だ。
2009年の人口が前年比で15万人以上減少したことでも明らかなように日本の総人口は減少し始めており、2050年には9,515万人と1億人を下回り、3人に1人が65歳以上の高齢者という超高齢化社会となり、製造業としては深刻な時代を迎えることになる。
すでに内需が次第に収縮する景気後退サイクルが始まった。企業が国内投資よりも人口増が見込まれる新興市場に投資を集中するのは当然の戦略である。しかも、ボリュームゾーンが新興国に移ることで、『地産地消』で需要のある国で部材を調達しモノを生産するのも当たり前のこと。市場はグローバルで大きく変化してきており、国内の空洞化は避けられない。それだけに国内だけに目を向け日本に残る仕事、日本でしか加工できない仕事だけを受注しようとすれば仕事は減り、受注単価が下がるのも自然の成り行き。日本はあらゆる分野でプレイヤーが多く、1件の仕事に複数の板金サプライヤーが絡むことも珍しくない。
こうした中で企業の立地条件や地場産業の有無などの外的要因で泥沼に足を取られる板金サプライヤーも増えている。自助努力で対処するとは言っても1社では限界がある。差別化技術を琢磨することと併せ、企業認知度を高める努力も重要だ。その意味でインターネット環境、とりわけクラウドコンピューティングが一般的となった現代では、ネットやITを利用した営業活動も重要となっている。
あらためて自らの企業が目指すべき“山”を確認して、どのルートから攻略していくのかを見定めることが重要となっている。