〜視点〜

世界動向を追い風に、日本を変えなければならないという意志を持つ




年度始めは新年を迎えるのとは違った緊張感がある。そうした緊張感とともに、筆者の中には突き上げるような思いが沸いてくる。過日、鹿児島のある経営者の方と話していて、その思いはさらに強くなった。その方は「今年の桜島は活動期で噴煙を絶え間なく上げ、鹿児島湾は霧がかかったように噴煙が棚引いています。降灰量が多いため日常生活にも影響が出ています」と話していた。筆者が昨年7月に鹿児島を訪れた時は、陽を浴びて青く輝く鹿児島湾、白い煙を上げる桜島、そして薩摩富士と呼ばれる美しい容をした開門岳を仰ぎ見ることができた。ところが今年1月に見た景色は、湾全体に霧がかかったように噴煙が立ち込め、降灰も目立っていた。そんな景色を見ながら140年前、明治維新に尽力した西郷隆盛、大久保利通や坂本竜馬、彼らの後ろ盾となった島津斉彬、小松帯刀なども同じように眺めていたかと思うと、心が高揚する。
2008年秋のリーマンショックに始まった金融経済危機。中国・インドなど新興諸国の経済成長とそれを支えるボリュームゾーンの拡大。さらには鉱物資源や食料などの高騰と工業製品のコモディティ化―低価格化。世界経済の動向に呼応して、日本は否が応でも明治維新にも似たパラダイムシフトの波に飲み込まれている。経済的にはドル一極時代が終焉する一方で、EUは南欧問題に端を発したユーロ安で経済成長が停滞。さらには欧米を中心に大量失業時代が深刻化する中で芽生え始めている保護主義とブロック経済化。その極点で、世界経済への影響力を拡大する中国への圧力を強めるアメリカ。11月に中間選挙を控えるアメリカは保護主義と元高圧力を一段と強め、米中の経済摩擦が政治問題化している。そしてGDPの30%、国家収入の40%、輸出の70%を石油・天然ガスに頼る大国ロシアは、プーチン首相への権力集中によって国家統制経済をますます強めている。日本を取り巻く世界の状況は、明治維新前と同様に大きな変革を遂げている。国内では、団塊世代が60代後半に入りリタイアし、少子高齢化がますます進行。2050年には人口が半減するとも予測され、経済発展の原動力である消費支出の勢いが減退することで国内市場の収縮が進んでいる。
こうした状況の中で明治維新を考えると、傑出した人物を輩出したという違いはあるものの、“時代”に彼らの肩を押す必然性があったことを忘れてはならない。『経済危機をチャンスに変えた明治維新の知恵』(原口泉著・PHP新書・2009年7月刊)によると、「南北戦争がなければ明治維新は起きなかった」。幕末から明治の歴史は、実は経済の動向で動いていた。薩摩藩は琉球貿易で得た世界情勢を見極め、1861年に勃発した南北戦争で輸出が止まって高騰した綿花を大量に買い集め、イギリス人貿易商を通じて買入価格の5倍以上の高値で売却。こうして得た資金で南北戦争の終焉により無用の長物となった大量の武器・弾薬を安値で購入し戊辰戦争で活用、近代兵器で劣る幕府軍を破った。また、南北戦争は工業化が始まり保護貿易で自国産業を守ろうとした北部と、奴隷制度に基づいた綿花栽培で収穫した資源・綿花を世界に売ろうとした南部の自由貿易派が、テキサス、カリフォルニアなどの利権を巡って争ったとも分析。いわば世界経済の様々な動きが明治維新を可能ならしめたと分析しており、この論点は新鮮だ。つまるところ世界を意識し、その風を入れなければ改革は一歩も進まないということだ。日本の閉塞した政治経済情勢を見ていると、世界のトレンドを追い風にした先人たちのような、日本を変えなければならないという強い意志が求められている気がする。