〜視点〜

「新興市場の拡大」と「製造業の生産改革」がパラダイムシフトを引き起こしている




みずほコーポレート銀行産業調査部が発表したレポート「日本工作機械産業の現状と課題」が工作機械業界で話題となっている。世界の工作機械市場は2000年代に入ってわずか8年間で生産高が3倍に急成長。日本の工作機械受注額も2004年に1兆円を突破すると、2007年には史上最高の1兆5,900億円を記録し、5年連続で1兆円を超えるなど絶好調だった。ところが、リーマンショック後、2009年は4,118億円と2007年比で75%減にまで落ち込み、バブル崩壊時の5,318億円を下回ってしまった。同レポートは、その原因を分析し、2015年までの業界展望を行っている。
マザーマシンと呼ばれる工作機械は日本のモノづくり産業を支える基盤産業であり、この産業の動向は日本の製造業の将来を展望するうえで重要である。レポートの冒頭では、「新興市場の拡大」と「ユーザー業種である製造業の生産変革」という業界を取り巻くパラダイムシフトの状況を分析し、切削型の工作機械生産で27年間世界第1位の座を守り続けた日本の競争優位の条件が大きく変化したことを指摘。そして、日本の製造業の海外シフトが進み、内需は縮小に向かい、成長には外需獲得が重要となり、日系のみならず現地メーカーの新規開拓が今以上に求められるようになるとしている。競争優位性が失われていく中で、日本が国際競争力を維持していくためには、ボリュームゾーンであるマシニングセンタや旋盤市場の取り込みが必須であり、そのためには今以上に海外での販売・サポート体制や現地仕様機のラインアップ強化が必要となる。また、加工ノウハウの提供や生産効率最大化となるような「加工プロセス提案」といった「ソリューション提案」による差別化が重要だとしている。
さらに、「新興市場の拡大」にともなうボリュームゾーンの需要拡大により低価格市場が拡大し、ニーズも品質や精度から価格へとシフト。外需取り込みのためにはグローバルサポート体制や現地ニーズに合った海外仕様機種が求められる。そして、グローバル展開力で勝る大手メーカーは業績を伸ばすものの、それ以外のメーカーは大手メーカーのようなサポート・サービスによる差別化が困難なため、何も手を打たなければ徐々に力を付け始めている新興メーカーとの単なる価格競争に陥ってしまう可能性があると分析している。また、工作機械受注額は2015年になんとか1兆円に回復すると予想されるが、外需比率は60〜70%に増加すると述べている。
このレポートを熟読した業界関係者は、「内需縮小・外需拡大・低価格化・競争優位の喪失など、今の日本の製造業を象徴する状況が指摘されている。今後はグローバルを睨んだ企業間の合従連衡が盛んになるだろう」と感想を述べている。また、あるエンジニアは「これまではより速く、より高機能にと品質を追求してきた。しかし、これからは価格優先で商品企画を考えなければならない。地産地消に対応するためにプロダクトアウトの発想を捨て、マーケットインの発想に切り替えていかなければならない」と語っていた。まさに時を得たレポートとなっており、業界関係者のみならず、板金業に関わる方々にも参照されることをお勧めする。
政府は3 月1 日、2009 年10-12月期のGDP ギャップがマイナス6.1%となり、7-9 月期のマイナス7.0%から低下幅が縮小したが供給力に対する需要不足額は名目年率30 兆円程度になると発表した。国内の設備過剰感が収束しなければ新規設備投資はなかなか生まれてこない。それだけに内需停滞、外需依存という業界基調は変わらない。

みずほコーポレート銀行産業調査部「日本工作機械産業の現状と課題」http://www.mizuhocbk.co.jp/fin_info/industry/sangyou/pdf/mif_81.pdf