〜視点〜

コモディティ化※への対応
仕事量7割、単価7掛けで売上は5割




年明け後の新聞紙面を見ていると身震いがする。寒波のせいではなく、日本の製造業を取り巻く環境が日増しに厳しさを増しているからだ。
目先を見れば、半導体製造装置を筆頭に仕事量は回復してきており、1年前に比べれば6〜7割まで仕事量は戻ってきている。それだけにもう少し待てば「8割程度には戻る」というのが多くの経営者の楽観論である。しかし、受注の中身を見ると確実に受注単価は2〜3割下がっており、売上ベースで見れば、受注量7掛け、受注単価7割で売上は7×7の5割というのが実態。これから景気が回復するにしても、実際の売上数字で見ればピークの5〜6割に戻れば御の字ということになり得る。このままでは企業を維持するのがやっとで、設備投資や優秀な人材確保といった積極的な投資ができる状態には至らない。
なぜ、こんなことになっているのか。その最大の要因が、しばしば新聞にも登場する工業製品の“コモディティ(commodity)化”である。すなわち、最初は特別の技術を持つ1社だけが製造できる製品だったとしても、やがて加工設備・加工技術の普及、他社製品の機能向上、あるいは製品の規格化・標準化・モジュール化などによって、どこの企業でも製造可能になると、機能や品質の面で差のない製品が市場にあふれるようになる。こうなるとユーザーは価格、あるいは買いやすさ以外に選択基準がなくなる。言い換えれば、「どこの製品を買っても同じ」という状態になってしまう。
昨年、トヨタ自動車が新型プリウスを現行価格を下回る価格で発表したこともコモディティ化を象徴する事例である。事ほどさように最近の工業製品は低価格が売り物になっている。そうなると、板金サプライヤーも受注単価を下げざるを得ない。とりわけこの製品が人件費の安い新興国のコンペンチター(競合者・競合社)でも製造できるとなると、従来価格の半分で製造しないと価格競争力を持ち得なくなる。世界のボリュームゾーンが新興国市場にシフトする中では、工業製品の低価格化の流れは止めようがなく、板金製品の受注単価は下落するばかりである。
価格競争力を高めるには、図面段階での徹底したつくり込み、VE提案、フルターンキー(設計・製作から仕上げ・表面処理・組配・組立までを一括で請け負う方式)で受注して中抜きをなくすなどの努力をしないと達成は難しい。しかもボリュームゾーンは量がはけるから生産ロットが跳ね上がり、試作から量産設計に入る段階で板金から型化(プレス化)していく傾向も考える必要がある。そうなると板金の一枚看板では試作・量産までを一貫受注することが難しくなってくる。板金に未来があるかと問えば「ある」、しかし、それをどこで製造するのかといえば「地産地消」―需要があるところで製造するようになることで、限られた板金の仕事も海外へシフトする可能性が高い。最近お会いした中国に生産工場を持っておられる経営者の方によれば、「中国国内での競争も激化し、収益性が低下している」。すでに、“メガコンペティション”(国境や業界を超えた大競争)は始まっているのである。こうした状態を放置すると時間が敵となって、企業存続も危うくなるのは自明の理である。
こうした環境から脱出するためには経営者自らが認識を変え、“シフト・グローバル”に対応することが重要だ。2010年は板金業界にとってのターニングポイント。変化する状況に能動的に対応することが求められている。

※商品がメーカーごとの個性を失い、消費者にとってはどこのメーカーの商品を購入しても大差ない状態。