〜視点〜

板金サプライヤーには「エンジニアリング力」が必要




松の内が過ぎ、七草がゆで弱った胃腸を整え、心身ともにリフレッシュしたと感じたのも束の間、早くも1カ月が経ってしまった。
大晦日、除夜の鐘を聞き終え初詣に出かける際、夜道を照らす満月を見上げて、今年の景気動向に思いを馳せ「何とかしなければ」という焦燥感を覚えた。昨年後半から一部の業界では明るさが戻ってきているが、1ドル80円台後半の円高が続き、アメリカ経済の動向によっては70円台に突入するという事態もあり得る。さらなる円高は、外需という梃で景気を支えている日本経済に大きな影響を与える。しかも、これ以上の円高が続けば製造業はこぞって海外へ生産をシフトし、国内の空洞化をますます加速することになる。
いずれにせよ、国際競争力を高めるためには一層のコストダウン(CD)を迫られることになる。すでに大手企業では資材調達の一元化が進み、コストは調達本部で一元管理され、SCM(Supply Chain Management:供給連鎖管理)によって世界中のサプライヤーから最適調達を行う傾向が増している。価格破壊が起こり、デフレスパイラルが進む中で、2010年はグローバル競争に対応したCDを実現する中小製造業が生き残る。すなわち、CDこそが生き残りの分水嶺となる気がする。景気情勢は暗闇のまま。この環境から脱出するために一条の光明があるとすればそれは、大手企業がQ,C,Dをつくり込むために行うフロントローディング開発に積極的に参画することだ。サプライヤーに期待されているのは商品企画段階での設計提案と承認された図面に対しての工法提案による大幅なCD。しかし、大手企業で設計提案が実際の図面に反映されるまでには半年から1〜2年の歳月が掛かる。そこで、まずは工法提案を優先して得意先へのアプローチを行うことが重要だ。接合を曲げに替える溶接レス、材質・板厚の置換など、さまざまなCD提案がある。この提案力がサプライヤーにとってはエンジニアリング力。エンジニアリングによってCD提案図面ができ、製品に必要な部材が提案企業に発注されれば最善だが、ロットやデリバリーコストを考えると提案した図面に基づきローカルベンダーに仕事が発注されてもやむをえない。「加工賃ではなく、エンジニアリングフィーで生きていく」くらいの強いマインドを経営者は持つ必要がある。
製造受託サービス企業からエンジニアリングメーカーへの脱皮。削り出しの機械加工に比べ、板材を抜いて、曲げて、溶接して組み立て、製品にする板金加工は工程数も多く設計自由度も高い。それだけにエンジニアリング能力こそが困難なCDを実現する光明だ。月が満ちて満月に至るためには時間がかかる。これと同じように発注元の図面どおりの製品を受託製造していた板金サプライヤーが、CDサービスを行うエンジニアリング能力を備えるためには、これまでに培ってきた加工技術、材料の知識、品質管理能力など様々なノウハウやデータが必要で、そうしたものを1つひとつ積み重ねていくことで、欠けていた月が満ち、明るさを増していくことに繋がる。むろん満月は日を待たずして欠けていく。常に満月を維持するためには加工技術やノウハウを際限なく追求し続ける努力が必要だ。漆黒の闇が次第に明るさを取り戻すように、現下の経済危機を乗り切るためには月を満たすための発想の転換、企業・社員のノウハウの修練・蓄積が必要だ。
神殿に頭を垂れながら、厳しい日本経済の暗闇から「エンジニアリング力」という天啓を受けた気がした。その思いをこれからも強く読者の方々に伝えたい。