〜視点〜

2010年「千里を駆け抜ける体力とスピード」が勝負の年に




2010年の干支は寅。サブプライム問題に始まり、リーマンショックで経済危機への坂道を下り始めた2008年が子年、2009年が丑年。株式相場では子は繁栄、丑はつまずき、寅は千里を走り、2011年の干支である卯は跳ねるといわれる。しかし、干支とは裏腹に、実体経済にはこの喩えはあてはまらない。ここしばらくは本格的な景気回復は見込めないというのがおおよその実感だ。10月頃から半導体市況に動きが見られ、その影響で半導体製造装置の受注も徐々に回復、装置の板金部材加工を手がける板金サプライヤーの中には休出で、納期対応を迫られる企業も出始めている。しかし、板金業界の受注情況はピーク比で5割から7割というところが大半。金曜日を一時帰休して4勤3休の操業体制で急場をしのぐ企業の数は相変わらず多い。小誌が毎年恒例で行なっている新春業界アンケートに対する回答結果を見ても、今年の景気は「横バイから緩やかな回復」と回答する企業が多く、これまでの調査では目立たなかったが、今後の業界課題に、「BRICsの台頭」を挙げる回答者が多くなった。とりわけ、「低価格化が進みデフレが加速する」という、先行きに対する不透明感が際立ってきており、経営者のマインドがかなりネガティブになっているのが気にかかる。
10月初旬に訪れた南ドイツの板金工場も、日本同様に昨年から今年前半までは受注が半減する環境は変わらない。ところが彼らは新規顧客を開拓するために、アグレッシブに活動している。得意先の数を見てもいずれもが三桁の取引先を持ち、幅広い業種から仕事を受注しているのと、新規の得意先を開拓するためにドイツ国内のみならずEU諸国や比較的景気が好調なアジア圏にまで商圏を拡大、中国がらみで仕事を受注したサプライヤーもある。
それに対して日本の板金工場の経営者は先行きへの不透明感が増す中、人件費を含めた固定費削減を真っ先に行い、得意先開拓に関しても日本国内が中心で海外にまで進出を考える経営者は余りいない。結果、限られた国内の仕事を獲得するために各社が受注に凌ぎを削り、価格競争を行なうことでデフレスパイラルを加速させている。アンケートにも受注単価の下落、競争激化を差し迫った経営課題としてあげる企業が多い。その結果、先行きに展望が開けないことから設備投資にも積極的な対応ができず、設備年齢だけが年を重ねる格好となっている企業も多い。
こうした日独板金工場の経営者のマインドを観るにつけても、わが国板金業界のひ弱さ、待ちの姿勢による消極的なところだけが目立っている印象を受ける。15〜20年前までは日本の板金工場を見学したドイツの経営者がNC化、ロボット化が進み多品種少量生産に対応したモノづくりができていた日本の板金工場に愕然とし、帰国してLook Japanで自動化、省人化に取り組むようになった。それだけに真似される側だった日本の板金業界の元気が薄れ、ドイツの勢いだけが目立つようになっている。むろん、ドイツでもそうした企業は、一部だけかもしれないが、勝ち組になろうとする板金工場にとって、ドイツ板金工場の元気なマインドはしっかりと学ぶ必要がある。
今年は「千里を駆け抜ける体力とスピード」が求められる年になるという気がする。そこで、一歩先に出られれば、2011年は兎年で高く跳ねることができできるようになるかもしれない。2010年の元旦を迎えて改めて心を新たに板金業界の進路を見誤らないよいうにしなければならないと感じた。