〜視点〜

経営者の能力と経営品質




9月30日から10月3日までの4日間、南ドイツを訪れた。バイエルン州の州都、ミュンヘンでは恒例のオクトーバーフェストが開催されており、レストランなどではジョッキを片手に歓談する老若男女の姿が多く見られた。フェスティバルには隣国イタリアをはじめ、世界中から多くの観光客が集まり、町中のビールが飲み干されるという。
ドイツ経済はリーマンショック後の世界同時不況の影響によりBMW、ポルシェ、ベンツ、オペル、フォルクスワーゲンといったドイツを象徴する自動車メーカーの業績が悪化、連邦政府は総額50億ユーロ(6,500億円)を投じ、購入後9年以上経た車を新車に乗り換える場合に、1台あたり2,500ユーロ(32.5万円)の助成金を支給する緊急経済対策を実施した。予算を消化した9月2日までに200万人がこの政策を利用して新車を購入、自動車販売への影響は極小に抑えることができた。企業もワークシェアリング制度を導入する雇用対策を採ったことで、8月のドイツの失業率は7.6%と、1992年5月以来16年ぶりの水準に持ち直すなど、景気後退による社会的な影響への歯止めとなった。しかし、こうした支援策が終了したことで今後の自動車需要の低迷が心配され、ドイツ経済の先行きへの不安となっている。
そんな情勢の中で、ドイツ国内の有力板金企業2社を回った。従業員数は170名と93名、得意先数も100〜350社を抱える。2社ともにジョブショップで、リーマンショック後に25〜50%も受注を減らしたが、提案営業による新規顧客開拓が成功して70〜90%近くまで受注は回復していた。しかし、両社ともに黙って増えたわけではない。今回の景気後退は従来型の景気循環サイクルとは異なり、産業構造が変わる大きなパラダイム転換に伴うものだと判断し、従来の取引業種以外の新産業開拓に取り組んだ。3次元CADを活用した設計提案、板金加工、プレス加工、機械加工を取り込み、溶接、塗装から組配までのセット受注に対応できる設備能力。新しい加工技術提案を行うために、最新設備に常時入れ替えていくという積極的な投資マインドを備え、多品種少量生産の自動化にも熱心に取り組んでいたのが印象的だった。ドイツでも日本同様に勝ち組、負け組の優勝劣敗がはっきりしてきており、経営の舵取りが重要となっている。2社ともファミリーカンパニーで、親子2代で経営する企業と、後継者がようやく26歳と1人前に育ちつつある企業という違いはあったが、いずれの経営者にも積極姿勢は共通していた。
南ドイツはチェコ、オーストリア、イタリアの国境に近く、工場従業員の1割以上を外国人労働者が占めているが、国籍によって賃金を差別することはなく、すべて能力に応じて給与を決めていたのが好印象だった。また、曲げ工程に複数のベンディングロボットを導入して曲げの自動化に取り組んでいることも共通していた。日本に比べてロットが大きいという傾向はあるが、以前よりは小さくなっており、ベンディングロボットで加工するロットも50個を割り込むものもある。日本と比較すると、経営者自らが率先してロボットを使い切ろうとする意欲が高いことと、テクニシャン(技能工)がデジタルを応用してエンジニアリング・テクニシャンへと変化していることに注目した。自助努力によってこの不況を乗り切ろうとする意識は日本以上に強く、景気回復を待つという姿勢は2社とも皆無だ。グローバル化する世界経済が、ますますシンクロナイズしていく中で、経営者の能力と経営品質が問われていくことは間違いないようだ。