〜視点〜

霜月に思う―
社員のモチベーションを高め、凍えぬ環境をつくる




日本の製造業は、2000年を過ぎたころから大きな転機を迎えた。特に2007年以降の石油をはじめとした鉱物資源や食料品価格の高騰、その後のサブプライムローン破綻、リーマン・ショックで深刻な世界同時不況の傾向が際立ってきた。これまでも製造業は変動する市場環境に柔軟に素早く対応するために、開発期間の短縮やコスト削減などによる競争力の強化を進めてきた。こうした発想は「モノはつくれば売れる」というプロダクト・アウトの発想に立ったものだった。しかし、こうした考えでは今後の成長は望めない。政権交代によって誕生した民主党政権が掲げる、2020年までにCO2の排出量を1990年比で25%削減する、という低炭素社会実現が具体化すれば省資源化や地球環境保護などに真剣に取り組もうとしない企業は社会から価値を認められず、生き残ることはできない時代を迎えることになる。世界的な経済危機の到来が契機となって、産業のパラダイムシフトが加速されるようになっている。低炭素社会を迎えれば、これまで産業のトリガーだった自動車産業では、とりわけ自動車そのものがメカニカル、エレクトロニクス、オプトニクス、ソフトウエアの集合体となって変化を迫られている。そうした変化の中で、EVやハイブリッド車に対応したバッテリーやモーターなどの新しい基幹コンポーネント、新しい車体構造、さらには燃料電池、充電ステーションなど、社会インフラの領域にまで変化が起ころうとしている。こうした社会や市場の変化に対応するマーケット・インの発想によるモノづくり企業こそが、これからを生き残ることができる。
ヘンリー・フォードが1908年に導入した近代的な組立ラインは、ビジネスの世界に一瞬にして革命を起こした。各作業を工程ごとに明確に定義した後、これらの作業を自然で論理的な順番に並べ、それに従って作業者を配置するという概念は当時としては画期的なものだった。トランスファーラインから生まれて来るT型フォードは、そのどの部品を取り上げても寸分の違いもなかった。そこには変化も、予期せぬ事態も発生しない品質の安定という効果も生まれた。あれから 100年が経ち、この確かな製造システムを支えてきた前提の大半が崩れ去った。プロセスも製品も絶え間なく変化している。驚くほど短い製品のライフサイクル、急激な技術進歩、地理的な境界や競合相手さえもはっきりしないような競争の中で、企業は勝ち残らなければならなくなっている。
100年に1度の経済危機であるとすれば100年前に確立された大量生産、大量消費という市場構造そのものが大きく変革を迫られているということだ。社会を支えるインフラから経済構造までのあらゆる仕組みが大きく変革を迫られている。
編集子も何度となくこの欄でパラダイムシフトを紹介し、待ったなしで迫られている変革に警鐘を鳴らしてきたが、改めて考えても課題は重い。現状の棚卸しを行い、「変えるもの」、「変えてはいけないもの」を見極めながら、新しい時代への舵取りを進めなければならない。くしくも4年前の1月号でも「不易流行」を板金業界の中でも求めてみたい、と記していた。時は満ちた。この原稿が掲載されるのは11月―霜月である。「霜月」は文字通り霜が降る月の意味。寒さに凍えぬように社員のモチベーションを高め、社長の示した羅針盤に従って企業を前へ前へと進める時が来ている。