〜視点〜

退路を断ち、進路を定める時がきた




マクロ経済は3月から4月にかけて底をうち、経済は緩やかに回復に向かっていると日銀短観などでは発表されているが、実体経済を代表する製造業にはそれほどの実感はない。相変わらず生産調整で一時帰休を続けている企業は多く、受注が上向きになってきたと語る企業でも3割程度だった受注が5割程度にまで回復したに過ぎない。景気が元に戻ることはない、ということは、どの経営者も理解し、「7割程度にまで戻れば御の字」という認識も拡がっている。
ところで、板金業界の発注元として年間500億円以上の部材発注を行っていた工作機械や建設機械といった業界では相次いで2009年から2010年までの受注見通しが発表されているが、その数字には想像以上に厳しいものがある。工作機械受注金額はピーク月から見れば1/4の300億円前後。年間を通しても4,000億から4,500億円というところが工業会あたりの見込みとなっている。この数字は前年実績から見れば3割である。また、建設機械も2008年の1兆9,757億円という出荷金額に対し、2009年は42%減の1兆1,370億円。2010年は2009年比17%増の1兆3,272億円という出荷金額見通しが工業会から発表されている。2010年になってやっと2008年比で6割、出荷金額がピークだった2007年の2兆5,000億円から見れば5割程度にまで戻るということになる。工作機械や建設機械の受注・出荷実績は景気の先行指標と言われているだけに、製造業の景況を占うにはこの数値は参考になる。少なくとも今のままであれば今年の受注金額は前年比で5割から7割減、2010年でようやく半分にまで戻るという考えを持っていた方が、間違いがない。しかし、売上が半減するということは企業規模を半分にしなければイーブンにはならないということである。今までは一時帰休と国からの補助金で何とかリストラを避けてきた企業でも、この状態がまだまだ続く、ということになれば本格的なリストラを考えざるを得なくなる。また、設備過剰を是正するために機械設備の集中と選択を行い、遊休設備や老朽設備を思い切って廃棄して生産性の高い設備、あるいはこれから問われるであろう、環境品質に対応できる機械に入れ替えるという選択も必要だ。そのために今、板金企業の経営者に求められているのが明確な経営ビジョンを持つことだ。自分の会社をどこへ導こうとしている退路を断ち、進路を定める時がきたのか、どんな会社を目指そうとしているのか、それを明確にすることである。
従来型の産業からの受注回復を待つという考えもあれば、エコを中心とする新産業に活路を見出していこうという考えもある。あるいは内需回復をあきらめて今後の経済発展が見込まれる中国に新天地を求め、工場進出するという考えもある。すでにこうしたテーゼ※、またそうした判断・命題に基づいて行動を起こしている経営者も大分出てきている。「案ずるよりも生むが易し」ではないが、いろいろなことを逡巡するよりも、思ったことを実行した方が良い場合が多い。逡巡すると退路を残したりするので徹底できずに失敗するといったことも起こりがちである。リーマンショックがトリガーとなった金融危機、世界同時不況もはや1年。自らの企業のビジョンを定めて進路を決めなければいけない時に差し掛かっているという気がする。
経営者にとっては孤独で過酷な作業になるが、ここで自らの退路を断ち切って新しい進路を見定めなければならない。