〜視点〜

「義」と「愛」に象徴される日本品質を支えるモノづくり




NHKの大河ドラマ「天地人」の主人公、直江兼続人気にあやかって「義」と「愛」という言葉がいろいろなところで目に付く。特に直江兼続の地元新潟県与板町では、土産物としてクッキーや記念品に「義」と「愛」というロゴをあしらった様々なグッズが観光客からも好評のようだ。政治家の中にも「愛」のある政治を実現しますと公約に掲げる人も現れている。兼続ブームである。景気が悪化し、雇用調整で失業者も増加、収入が落ち込むようになり、世相が殺伐として閉塞感が見られるようになっているだけに、「愛」という言葉が人々の心に心地良く染み通るようだ。直江兼続が使った「愛」は、戦の神様である「愛染明王」から取ったものとも言われるが、その一方で「義」に対応した主君や領民たちへの「仁(慈)愛」と考えるのがふさわしいとも言われている。
ところで、最近経営者たちから聞かれる話に、この「義」と「愛」が深く関連する。すなわち日本人には持って生まれた「義」、「愛」などという人を思いやり、尊敬する心が育まれている。モノづくりにもこうした「魂」が込められた、思いやりのあるモノづくりをすることで高品質な製品?“日本品質”が生まれるという考えである。確かに、自分の責任で果たさなければならないと思った仕事に関しては、サービス残業になったとしてもやり遂げるという社員は多い。また、自分の前後工程で共に働く同僚の作業までも考えたモノづくりなどを含めて、日本人には人を思いやる心が根づいている。それをモチベーションに能力を引き出し、モラルを向上させ、マニュアルに書かれていないことでも、納得できないことがあればそれを突き詰めようとする気持ちを持った日本人は多い。海外の工場では、マニュアルがあっても工場長や品質責任者などコアとなる日本人スタッフがいなくなると品質が低下する傾向が見られる。また、上司に見られている時にはきちんとした仕事をするが、見られていなければ手抜きをし、場合によってはマニュアルどおりの仕事すらしなかったことで不良発生が目立つ、という話を、長く海外工場で勤務経験のあるエンジニアからは聞く。日本人のメンタリティーである「もてなし」とか「思いやり」、そして根底にある「義」とか「愛」といった気持ちがあるからこそ、日本品質を保ったモノづくりができていると、経営者たちは真剣に語っている。だから安易には海外進出ができない。海外へ出たら優秀な日本人スタッフを送り込まないと身ぐるみ剥がされてしまうとも考えている。
むろんこうした意見とは別にモノづくりプロセスをデジタル化して、トレーサビリティーの高いモノづくりができる仕組みを構築しなければ、これから海外生産で日本品質を維持する“Made by Japan”は確立できないと主張する経営者もいる。そうした意見も、もっともだとは思うが、そんな経営者でも「気持ち?マインド」の重要性は否定しない。厳しい経済環境が続くだけにこうした社員のモノづくりに向かう姿勢や、気持ちを持続し継承することがますます必要とされている。しかし、そんな兼続も、天下分け目の関が原の戦いでは西軍、石田三成と手を結び、「義」を重んじた戦を徳川に仕掛ける。ところが関が原の合戦が始まっても兼続は会津を出ることなく、戦を傍観、東軍の勝利が決まると徳川に和議を申し入れ、家名を明治まで残すことが出来た。このあたりは藤沢周平の小説「密謀」に詳しく紹介されていて「義」と「愛」だけに生きていた訳でないことが良く分かる。これからの大河ドラマの推移を見ながら「義」と「愛」の裏側のしたたかな心根もよくよく考えることが必要だろう。