〜視点〜

不況の時にこそ経営者が吟味される




最近、板金業界のパラダイムシフトをテーマとした講演についての依頼が増えている。昨年秋からの世界同時不況で板金業界も仕事量が激減、前年同期比で3割、4割の落ち込みは当たり前で半分以下になったという企業も多い。2月に景気は底を打ったというマクロ経済の見通しが出てはいるが、実体経済 ― とりわけ製造業では景気への底入れ感は少ない。不況の時こそチャンス到来と提案営業に力を入れる企業も増えてはいるが、限られたおいしい話にはいろいろな企業が集まってきて、価格を叩き合い、結果として利益率が低下して弱り目にたたり目というのが実態。だからといって手をこまねいていれば運転資金までが枯渇してしまう。そこで、少しでも可能性がある産業はどこか、勝ち残るために今、何をしなければいけないのか、企業経営者は情報に飢えている。そこで、冒頭のようにパラダイムが変わる板金業界の将来動向に関して話をして欲しい、という依頼に結び付いている。
私は、業界を取り巻く環境変化を紹介しながら、これからの板金工場には何が必要かというテーマで話をする。
おおよそは毎号の視点や業界特集などで紹介した情報を中心とし、あとはサクセスユーザー事例を紹介する事が多い。ソフトやマシンの良いタイミングでの導入で効果を上げた企業、上手い使い方、さらには工場内の導線の改善や、配転やローテーションなどでヒトが活きる改善例などは相槌を打ちながら聞いていただいている。
そのような、いろいろな会合や講演会などに出席して親しく懇談することが多いのだが、経営者自身が講演の話題に関する情報をお持ちでなかったり、知ってはいても、その活用の仕方を知らなかったりするケースが多い。例えば、6月12日から第一次募集が始まった中小製造企業のための「ものづくり中小企業支援制度」などを知らなかったり、一時帰休制度や教育助成金の話など、企業を経営するキーマンなら当然知っていることでも、手続きが面倒だとか、特急・割り込みが多いために全社的に一時帰休を導入できないとか、教育助成金も年間スケジュールやカリキュラムづくりなどの手続きが面倒くさいと考え、活用されていない、といった企業が多い。また、オンリーとまではいかないが、得意先数1社の依存度が高く、親亀こけたら子亀まで、という企業の割合も想像以上に高い。経営者も必死の思いで何とかしたいと考えておられるようだが、情報が断片的だったり、手続きを含めたハウ・ツーまで理解されていなかったりすることが多く、機会損失することが多い。
ご自分たちの持っている情報が平面的であるとか、断片的だとか、反省はされているのだが、打つ手が限られているようだ。企業には税理士をはじめとした外部のコンサルタントが入っているものの、彼ら自身が不勉強だったり、尋ねないと教えてくれなかったりといった問題を抱えておられる場合もあるようだ。しかし、税理士を責める前にそんな税理士と契約していることにも問題があるはずで、やはり経営者の立ち位置や情報に対するセンスが問題である場合が多いのではないだろうか。結局、企業は経営者の『器』以上には大きくなれないという結論にいき着いてしまう。松下幸之助の語録に「不景気になると商品が吟味され、経営が吟味され、経営者が吟味されて、そして事が決せられる。従って、非常にいい経営者の下に人が育っている会社は、好況の時はもちろん、不況には更に伸びる」という言葉があるが、今、改めて経営者の資質が問われている気がする。