〜視点〜

金融経済の崩壊で製造回帰が始まる




 1929年の世界大恐慌を彷彿とさせる信用収縮がアメリカを発信源に世界に広がっている。株価は暴落、金融恐慌を未然に防ぐため各国政府は証券、金融機関に対する公的資金の注入で信用収縮がこれ以上拡大するのを防ぐ緊急対策を相次いで打ち出している。実体経済とはかけ離れたところで繰り広げられてきたバブリーな金融経済の破綻である。
 この問題は対岸の火ではなく、製造業を中心とした実体経済にも影響は深刻である。株価の暴落により個人投資家を中心に含み益が消滅、GDPの6割を占める個人消費は落ち込み、円高ドル安による輸出の落ち込みとあいまって企業の設備投資意欲も減退、景気悪化のスパイラルが進もうとしている。直近に発表された景気動向を占う経営指標はいずれも大幅な落ち込みを見せており、08年度下期の景気は土砂降り模様である。板金業界でも下期に入り受注が前月比で2割、3割と落ち込む企業が相次ぐようになり、先行きへの警戒感が強まって、設備投資に対しても慎重な姿勢となっている。
 反面、ここが勝負と、目先の仕事への対応というよりも2年、3年先の業界動向を予測しながら中・長期の経営ビジョンを策定し、新工場を竣工して新鋭設備に入れ替える企業も現れている。また、40代に入り不惑の年を迎えた二代目に経営のバトンをゆだねる決心をして、後継者に重い荷物を背負わせる意味で二代目が描く次世代企業を構築するため億単位の設備投資に踏み切った企業もある。そうした企業に共通してあるのが、これからは発注元の選択と集中がますます強まり、リストラクチャリングによって、サプライヤーの選別が更に進む。その中で勝ち残るためには設計提案能力を備え、板金、非板金部品を含めた調達能力と組み立てに対応できる能力を備えていないといけない、という認識である。私たちはことあるごとに「板金ゼネコン」というキーワードを誌面でも主張してきたが、いよいよ板金企業のビジネスモデルとしての「板金ゼネコン」が日の目を見る勢いである。
 金融経済が破綻して実体経済を重視する傾向が強まれば、実体を反映するモノづくりによる経済成長が世界で模索されることは間違いのない事実である。そうなれば製造業の新たなる復権の時代を迎えて、製造業に対する世界の認識が変化、モノづくりに特段の能力を備えた日本は再び、世界経済をリードする機関車役を担っていくこともまた間違いがない。特にマザーマシンと呼ばれる金属工作機械分野で日本は20数年にわたって世界No.1の地位を確保している。それだけにモノづくりの知恵やノウハウを数多く蓄積している。さらにこれからの経済発展には必須の環境汚染防止技術に関しても日本には多くの技術が開発されている。こうしたモノづくりを支えるインフラとそれを使いこなすことができる技術者を備えた日本は、これからの世界経済の発展に重要な役割を担うことができる。イギリス、アメリカ、日本というように、かつての産業革命のように50年ごとにモノづくりの拠点が移り、今は中国が世界の工場として注目されている。しかし、上記のようなインフラを備えた国は日本しかない。それだけに目の前の現実に対して中・長期ビジョンを策定し、これからを考えることが今一番求められているような気がする。