〜視点〜

欧州が注目する日本のハイブリッド経営




 リーマン・ブラザーズの経営破綻は世界経済にも大きな影響を与えている。日米欧では中央銀行が緊急に資金を拠出して破綻の影響が他に波及するのを懸命に防いでいる。サブプライム問題に端を発した信用収縮の連鎖が更に拡大することのないように政策当局の速やかな対応を期待している。
 ところで、前号の視点でアメリカの製造業が意外に元気である、というレポートを紹介したが今月はドイツやイタリアのメディア関係者との懇談を通して教えていただいた独・伊の板金事情を紹介しておきたい。読者もご承知の通り欧州経済、とりわけユーロ圏の2008年4〜6月期GDPは前期比▲0.2%とマイナスに転じ、景気に減速感が目立ちはじめている。ユーロ圏の景気を支えてきた輸出、特にドイツから新興諸国に向けた輸出に変化が出はじめており、インフレや金融引き締めによりアジアや中東欧の景気にも減速感が出てきていることが背景にある。また、内需もインフレの増大から、個人消費の落ち込みが鮮明となっており、雇用・所得の改善にも一服感が出はじめている。内外需ともに牽引役に欠けることから、ユーロ圏の景気は減速傾向が続くとみられ、2008年の成長率は+1.5%程度にとどまると予測されている。また、2009年も後半には持ち直しの兆しがみえると考えられているが、成長率は+1.3%程度の低成長に留まることが見込まれている。
 そんな中でドイツの板金業界ではマクロ景気の影響を受け、売上の伸びは低調になっている。しかし、一時期低賃金を理由に東欧に流れていた仕事が東欧圏の賃金がここ数年で40〜50%近い上昇となったことで、ドイツ国内にUターンする傾向も顕著になっており、仕事量としての落ち込みは少ない。しかし、ドイツ国内の板金工場の中には東欧へ工場進出したり、別会社を設立した企業も多く、経済成長にブレーキがかかるとともに海外比率が高いだけに経済の停滞は今後大きく業績に影響するものと見られる。業界では10月21日から25日までハノーバー見本市会場で開催されるEuro BLECHに来場するユーザーの購買意欲に期待する声が聞かれている。
 一方、ドイツについで板金加工企業の数が多い、イタリアもドイツと同じように国内景気は減速傾向となっている。しかし、工作機械や繊維機械など一部の産業では受注の落ち込みが少なく、こうした業界に関連した板金企業では、まだ仕事量の落ち込みは少ないという。そんな2カ国のメディア関係者が語っているのが変種変量生産に対応する日本の板金業界の柔軟性とそれを支える秩序だてられた工場管理。また、それを支えるデジタル技術の活用に関しても驚いている。もともとゲルマン民族ということで秩序だったモノづくりに関しては日本以上と考えられるドイツのメディアも経営者から現場の作業者までが一体となって整然としたモノづくりを進めている様子には驚いていた。また、デジタル化を進める一方でベーシックなアナログ技術の重要性を認識し、マイスター制度には適わぬまでも、スキルアップのマニュアルを策定し技術伝承に取り組む中小企業の姿勢に敬意を払っていた。また、デジタルとアナログ技術を融合させるハイブリッド経営に関しても関心を持っていたのが印象的であった。