〜視点〜

健闘するアメリカ板金業界




 北京オリンピックの閉幕とともに、躍進を続けてきた中国経済にも一服感が出てきて上海株式市場などでは中国の株安が目立ってきた。以前から2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博が閉幕すると中国経済にも変化が出てくるとエコノミストたちからは指摘されていたが、それが米国に端を発したサブプライム問題によって加速しそうな雲行きである。世界経済にとっても厳しい状況が予想されている中で意外に堅調なのがアメリカの製造業である。7月に弊社と提携している米国の「The Fabricator」誌の記者が取材で日本を訪れた際の話では、米国ではサブプライム問題で金融界は大騒ぎだが、自動車産業を除く製造業は堅調という。特に穀物価格が高騰する中、農業機械に対する需要が世界的に拡大していることで板金業界にも影響が大きく、堅調に推移している。世界最大の農機具メーカーであるディア社の四半決算では原材料価格の高騰で収益は圧迫されているものの売上は増収に転じている。また、この他の農機具メーカーも軒並み売上は増収基調で推移しているという。反面、建機関連は住宅着工が減少していることもあってアメリカ国内需要は伸び悩んでいる。しかし、キャタピラー社などは海外市場が拡大していることもあって生産は順調という。このため、農業機械や建機関連の中・厚板市場が好調という見方ができる。ここへ来てユーロに対してドル相場が低下していることもあって輸出市場が拡大しており、新興市場向けの輸出需要が好調。また、人件費が安いということで海外へ流失していた仕事が海外の人件費高騰の影響から、アメリカにUターンする傾向も強まっているという。こうしたことからアメリカの板金業界では2009年の売上を増収と見込む企業が増加している。こうした中・厚板を中心とする板金業界の好調な業績を反映してレーザマシンなどへの設備投資意欲も堅調に推移している。ちなみにAMT(The Association for Manufacturing Technology;アメリカ製造技術協会)の調査によると2007年にアメリカで受注されたレーザマシンはCO2、YAGレーザマシンを加えると1,731台となり、CO2レーザマシンだけでも1,003台となっている。これは日本の国内需要とほぼ同等である。ともするとアメリカはファブレス化が進んで製造はすべてEMS企業が請け負っているような錯覚に陥るが、電子部品の組立産業を除くと意外とアメリカの製造業は根強く仕事を継続しており、特に板金業界はJob shopと呼ばれる中小製造業の基盤は堅実である。それだけにアメリカの板金業界で今、何が起こっているか、振り返ることが必要という感触を強く持った。
 反面、「The Fabricator」誌の記者は日本の板金業界のデジタライゼーションへの取り組みを、驚きをもって取材しており、日本の情報をもっと報道したいという意向を語っていた。日米の距離を埋めて板金業界の実像をこれからもしっかりと伝えることの重要性を知った。