〜視点〜

元気印の会社がたくさんある




 サブプライム問題の後遺症で信用収縮が目立ってきたアメリカ経済。原油をはじめとした鉱物資源や食料が投機の対象となって先物市場が沸騰する中で、世界的なモノ不足とインフレが進み国際経済の先行きに懸念が広がっている。日本でも消費者物価が上がり、8月の夏休みもバブル崩壊当時に語られていた、かつてのように安・近・短ブームが再びめぐってきている。一方で高騰する燃料費を少しでもリカバーしようと過積載する大型トラックを取り締まる検問が日常的に行われるようになって、なんとなく社会全体が「負の連鎖」に落ちて行くような不安を覚えるのは筆者一人ではないだろう。しかし、マインドで不況に陥って、実体経済以上に景気を悪化させるという過去の事例もあるだけに、むやみやたらな警鐘を鳴らすのもほどほどにしなければならず、景気動向について触れるたびに考えてしまう。そんな迷いの中で、最近取材でお会いした2人の若い2代目社長の力強い発言に勇気付けられた。
 1社は従業員60名、もう1社は40名の中堅板金工場である。2人に共通しているのがマクロ経済の動向もさることながら、自社の技術、設備、加工ノウハウに自信を持ち、今以上に設備力や生産能力の改善に積極的に取り組んでいることである。専任の営業担当を置いて積極的な提案営業を展開し顧客開拓を行っている。「回れば仕事は、まだまだある」と2社共、社長自らトップセールスで得意先回りをこなしている。「顧客満足度を改善し、発注元のパートナー企業として設計段階から相談に乗れるような能力を身につけたい」と8月中には3次元CADを導入して紙図面や2次元データから3次元モデルを作成して、バッチ展開によるプログラム工程のプロセス改革と客先への提案を強化しようと考えているところも似ている。1社の平均ロットサイズは1〜4個が60%以上、受注の7割以上が試作中心の新規品。もう1社は平均ロットが20台でリピート率が80%と業態こそ違うが短納期、多品種少量生産への対応こそが日本の板金業が生き残る手立てとして段取り改善、デジタルイノベーションにも積極的に取り組んでいた。「瞬間的に見れば、引き合いも受注件数も前年同期比で下回る時もあるが1年を通せば前年同期比並みか、1〜2%増の売上は見込める」としている。材料は高騰しているが有償支給に切り替えたり、自社調達分に関しては一部値上げに対応していただいている。更に徹底した原価低減を行うため発注元との間でコンカレントエンジニアリングができる体制づくりも進めている。さらに、エンジニアリング強化という視点では、先頭工程であるCAD/CAM工程には現場に精通したベテラン社員を配する他に、社員のスキルアップにも力を入れており、社長自らや先輩社員が先生役となった技能講座を開設したり、外部の有料の技能訓練講座にも参加させるなど、教育制度の確立にも力を入れている。「モノづくりはヒトづくり」という言葉は以前から経営者がよく使う言葉であるが、お二方とも同様の考えを持っている。さらに、視点を海外にも向けて遅まきながら、と社長自らが英会話学校に通って英会話能力を身に着けており、1社の社長はかなり流暢に英語を駆使、海外への営業展開も視野に入れていた。
 「景気が悪い悪いと言ったって高収益企業もあるのも事実で、やり方次第では高収益を目指すことは十分可能。他社に負けない設備力、提案力を備えていけば、お客さまが、お客さまを紹介していただくこともある。お客さまの満足度をどこまで高められるのかが重要です」と2社の社長は同様の言葉を明るい笑顔で語ってくれた。業界には、まだまだ元気印の会社がたくさんあるということが、ともすれば弱気となる経営マインドを支え、サクセススパイラルを作り上げてくれる。