〜視点〜

多品種少量製品のEMSを目指す




 20年度に入ってから3カ月が経過したが板金業界を取り巻く環境が厳しくなっている。小誌では一昨年から業種別特集として板金加工業界に仕事を発注する代表的な業種を取り上げ、板金部材調達のトレンドや発注元であるメーカーが板金サプライヤーとの間にどのような受発注環境のプラットホーム構築を考えているのかを取材し、特集をまとめてきた。昨年の上期までは特集も順調だったし、取材に訪れる板金工場にも活気があふれていたが、昨年秋口を過ぎたあたりから経済環境が徐々に後退模様となった。特に半導体製造装置をはじめとした薄板板金関連の仕事が落ち込むようになった。現状では半導体製造装置に関しては2009年いっぱいの回復は難しいとの見方があったり、画像診断装置をはじめとした医療機器、券売機、自動改札機関係をはじめとした自動販売機業界などこれまで薄板板金市場を牽引してきた産業の業績回復が厳しくなっている。さらにこうした業界では発注元が中国をはじめとした製造の海外移転を強めており、適地生産、消費地生産の傾向を強めていることも落ち込みの大きな要因となっている。しかし、アゲインストの板金業界の中で検討している業種が、建機、造船、鉄道車両など板厚としては4.5mm以上の中・厚板を加工する業種である。従来は機械加工で加工されていた部材も多いが、最近はレーザマシンの切断能力がレーザ発振器の高出力化によって30mmまでは切断可能となり、これによって削り出し加工されていた部材切断をレーザ加工に置き換えることで板金の領域拡大が進んだ。さらにこれまでは加工が難しいといわれてきた12〜16mmの曲げ加工も、板厚を検出するセンサー技術が進歩したことで可能となってきた。板厚や硬度のバラツキが大きく曲げ角度精度がなかなか出せずに溶接による接合でしか加工できないと考えられてきた製品が±0.15mmといった精度範囲で繰り返して行うことができる板厚検出センサー付のベンディングマシンが開発され、一体ものの製品として加工ができるようになってきた。これにより、それまでは機械加工で作成された複数のパーツを一体モノの曲げ加工製品にすることで、それまでの機械加工工程から考えると大幅なリードタイム短縮と高精度化を実現するようになった。こうした板金加工技術の進歩と、さらに最新のハイテクマシン、下穴加工やタップを工程統合して複合加工のできるパンチ・レーザ複合マシンなどの開発によって板金加工では不可能と考えられてきた加工領域までもが板金加工で加工できるようになった。また、マシニングセンター、ターニングセンター、放電加工機などとの複合加工によって板金製品のみならず、それに付帯した機械加工部品の受注にまで手を広げるサプライヤーも出ている。また、3次元CADが普及することによって加工ノウハウを外段取りでデジタル化し、社有化データとしている企業では、そのデータを設計に反映して板金モデルの設計を受託するところも増えている。コスト競争の激しい電機業界では2000年頃から収益のスマイルカーブが議論され製造、販売などの固定費負担が大きい割りに、集積の薄い事業をアウトソーシングして収益性の高い開発・設計、更にはサービスに特化する傾向が出ている。製造は海外へ移転して開発とサービスを国内に残そうという考え。こうした考えに立てば発注元であるメーカーが提示した図面どおりに製品を製作して納品するサプライヤーの仕事は海外へ移転、日本に残るのは開発、設計、試作といった仕事になっていくと考えられる。板金業界にはこれから加工領域の拡大と加工ノウハウを社有化し、それをベースにした開発、設計、試作への対応が求められていく。いわば多品種少量生産に対応した板金EMSを目指すサプライヤーが勝ち残る厳しい時代へと変わっていくものと考えられる。