〜視点〜

新興企業の登場で
業界再編が進む

 最近、業界を取材で回っていて気づくことがある。それは本誌上でもたびたび触れてきた業界の構造変化と再編が着実に進んでいるという事実だ。特に顕著なのが業界における新興勢力の台頭である。創業こそは古いがそれまでは板金加工とはまったく異なる業界であったり、板金業界の周辺−プレス加工や塗装業界−にはいたが板金加工についてはまったくの素人という企業がここ10年ほどの間に板金加工業に参入、最新のデジタル板金加工設備を導入、2002年以降の業界の活況の波に乗って業績を拡大するケースが目立って増えている。その一方で老舗といわれてきた企業が設備更新を怠り、更新時期に出遅れたばかりに活況の波に乗り遅れ、新興企業の後塵を拝するといった事態も増えている。こうした傾向は板金業界にのみ起きている特異な現象ではなく、広く中小製造業界全般にわたって起きていることだが、身近な板金業界にまでこうした「変化」が起きていることは驚きである。
 業績を大きく拡大している企業に共通して言えることは経営者が30代から50代前半までと若いこと、設備更新に力を入れるとともにIT技術を駆使して3次元CADや生産管理システム、インターネットを活用してモノづくりの「見える化」に力を入れるとともに、社員のモチベーション向上のために様々な取り組みを心がけているという点である。それと経営者の戦略的な思考の中にマーケティング的な発想が取り入れられているということである。例えば、これまでレーザジョブショップとして中・厚板加工に取り組んでいた企業が、得意先に今や絶好調の建機業界があることに目を付け、切るだけではなく16mm程度までの曲げ加工に対応するハイエンドなベンディングマシンを導入するとともに、溶接ロボットを導入して加工から溶接までの一貫生産体制を構築、3次元CADを導入した積極的な提案営業を展開、サブアッシー納品に対応できる能力を備えることで、今では建機メーカーにはなくてはならないサプライヤ−に育った企業がある。また、板バネ、コイルバネを手がけていたメーカーが業界の栄枯盛衰に対応してプレス加工業から板金加工業に転じて、板金加工製品は言うに及ばず、発注先の求めに応じて組立を強化して、非板金部品の調達にも力を入れることによって、サプライヤーの中では飛び抜けて発注高の多い企業となってしまった。この両社は本格的に板金加工に進出してわずか7−8年の新興企業でありながら、今では板金部品の一部をそれまで長年取引していた板金加工企業に2次外注するようになっている。主客逆転の構図である。
 さらに金型製作から金属プレス加工を手がけていた企業は3次元CADを導入して板金試作を取り込み、試作から量産までの一貫生産体制を構築するとともに、3次元CADを増設して、専属のCADオペレータを育成、製品の構造設計から詳細設計までも請け負うようになった。すでに同社で設計され、構造解析、製品化された製品が大手ブランドから市場で販売されるようになっており、この企業も発注元からは設計を含めたパートナー企業として発展、事業の拡大に伴ってさらに広い敷地に移転した。また、社歴も古く現社長が3代目という板金工場は都市計画で移転を迫られたことを契機にそれまでの2倍以上の新工場を建設、最新のデジタル板金設備を導入して「見える化」を徹底することで発注元からは『管理』のできている工場として認められ、取引量が一気に拡大、この2年で売上を1.5倍以上に拡大している。こうした事例は枚挙に暇がないが、それだけにこうした企業が伸びている裏側には淘汰されている企業もあるということを認識して、これからの経営のあり方を再構築しなければならない。