〜視点〜

踊り場にさしかかった
板金業界



 7月頃から板金市場の受注動向に黄色信号が点滅しはじめたようだ。春先からそれまで業界をリードしてきた※FPD業界の仕事が落ち込みはじめ、あわせて移動体通信業界の第三世代携帯電話に対応するインフラ投資も一巡した。また、金融端末関係も郵貯関係の一部を除き減少傾向が見られるようになった。ICカードを使ったJRと民鉄・公営鉄道の自動改札システムの運用も始まり、券売機、自動改札機などに対する投資も一巡した。こうした業界トレンドによって特に、薄板板金市場の仕事量は春から上げ止まり、減少に転じはじめた。建機や造船、鉄道車両では2010年までの注残を抱え繁忙状態が継続している。設備財関連の工作機械の受注は相変わらず堅調だが国内受注は踊り場を向かえ、機械カバーの発注の伸びは止まってきた。順調な建機や造船も好調さは新興市場向けの輸出好調が支えているが、一部には北京オリンピック開催の来年が受注のピーク、という見方が出始めており、サブプライム問題で信用収縮が続く国際金融市場の成り行き次第では世界経済の動向に変化が現れ、景況感が一気に悪化する心配も出はじめている。もともと景況感に敏感な日本経済だけに経営者のマインドの変化によっては投資や仕事の発注がキャンセルされる懸念が十分にあり、業界の先行きは楽観を許さなくなっている。
 こうした中で板金業界では設備投資を手控えるといった極端な行動にまでは至っていないが、ここ数年で合理化投資は一巡したとして新規の投資を手控える企業も出始めている。その一方で慢性的な人手不足から業界では海外からの研修生を受け入れる企業が多く見られるようになり、地域によっては常用雇用労働者
の10%余りがこうした外国人労働者によって占められるようになり、現場のスキル確保の一環としてデジタル化投資を加速させる企業が出ている。また、発注元のモジュール調達に対応して機械加工設備や塗装設備を新たに導入したり、関連企業をM&Aによって傘下に入れる企業も出てきている。さらに、好調業種の仕事を受注している企業の中には好調の持続がどこまで続くかわからないという不透明性の中で、企業グループをコーディネートして協業を目指すことで受注変動への設備能力のバッファーを備えるところも出てきている。また、薄板板金を手がける企業の中には親会社の海外移転に伴い海外への工場進出を決断した企業も出始めている。これまで中国への進出は珍しくなかったが、最近注目を集めているのがベトナム。インフラはまだまだ十分ではないが勤勉な国民性を評価して進出を決定する企業が見受けられるようになっている。
 このように急激な環境変化に対応して板金加工各社は08年の売上予測を計画する中で様々な選択肢でこれからを考えようとしている。小誌では昨年10月号から業種別特集を組むことで関連業界が板金部材調達をどのように考えているかを特集してきた。すでに今号で取り上げた業界は14業種となり取材を通して業界ごとの調達金額や部材調達のSCMに関する傾向を捕まえることができるようになっている。特集として単発で取り上げるのではなく板金業界の将来を展望する一環として1月号で板金業界ビジョンをまとめたいと考えている。これからの業界
に晴れ間は続くのか、土砂降りの雨に見舞われていくのか大胆に予測を試みてみたい。
 たかが板金、されど板金。板金業界の実態に迫っていきたいと考えている。

※フラットパネルディスプレイ ー 液晶ディスプレイ