〜視点〜

「3つのム・ダラリ」考察



 最近「ダラリーマン」という言葉を耳にする。これはモノづくりの基本『三ムのダラリ−ムダ・ムラ・ムリ』の三語を捉えて、頭にある「三つのム」とそれぞれのあとにある「ダラリ」を繋げた造語で、仕事の能率を上げるための「ムダ・ムラ・ムリ」の排除を意味している。
 経営管理工学ではすでに「ダラリの法則」が研究されている。仕事の非効率な部分は大方、この「ムダ」「ムラ」「ムリ」のどれかに当てはまるので、ダラリの法則で仕事を見直してみると、その非効率な部分が見えてくるというわけだ。「ムダ」-仕事で、同じような資料を何度も作ったりするのはムダ。作りすぎて在庫を抱えることは当然ムダだし手続きが必要以上に複雑なことにもムダが潜んでいる。やり直しが発生したり資料を運ぶ手間とかもムダかどうかの検討が必要になる。「ムラ」-成果物の品質にムラがある。気分によって仕事の進め方を変える、仕事の標準化が出来てなくて人によって書式がバラバラである、などもムラになる。また、特定の人に仕事が集中するなどのムラは、組織として仕事の進め方を見直す必要がある。「ムリ」-よくあるのはムリな納期を設定したり、ムリな計画で仕事を進めたりとかする場合で、仕事の進め方がそうなってしまっている場合もある。そういう場合、残業や徹夜が続くようになり、心や身体へのムリとなってしまう。その他では、不自然な体勢での作業、長時間続く重労働などもある。このようなムリが続くと、仕事全体の効率が低下して作業体制、時間などの見直しが必要となる。
 これらをまとめると「ムダ」は目標・目的に対して対応や手段が大きすぎる状態。「ムラ」は、ムダな状態とムリな状態が混ざることでムラになる。「ムリ」は目標・目的に対して対応や手段が小さい状態というふうに理解することができ、日本的イノベーションの象徴である「カイゼン」に大きく貢献している。振り返えれば、これは製造現場のみならず事務処理や営業の現場、いうならばビジネス全体や個人の生き方にも例えられる内容である。たとえば時間に対してのダラリもある。時間は目標達成のための重要な要素だ。仕事の進め方、考え方、時間の使い方、お金の使い方にも、ムダ・ムラ・ムリをなくしダラリを排除することは重要で成果にもつながる。
 ところで、仕事も人生も「ムダ・ムラ・ムリ」をなくして充実させることは重要なことだとはわかるのだが、どうすればダラリの追放ができるかこれがなかなか難しい。人間には気持ちの余裕や無駄と思われる些細な心遣いに幸せを感じることがあるのも事実だ。冷徹な企業論理で利益に結びつかないものがあれば、損失だ。役立たないものは、不用なものでしかないという理屈にも行き過ぎを感じてしまう。「人生に無駄な時間はない」と思いつつもダラリーマンにならないために何をしなければいけないのか難しい。
 週刊ポスト8月24日号で山根一眞氏とトヨタ自動車・渡辺捷昭社長が「製造業の発展が日本の命運を左右するというトヨタウェイの未来力」というタイトルで対談。この中でも渡辺社長は盛んにダラリの排除がトヨタのモノづくりを支え、「見える化」に貢献していることを語っておられたが、この対談を読んでみても改めて「ダラリ」に関して考えてみる必要があるような気がしている。
 それと、最近「空気を読む」という言葉が、あちこちで聞かれるようになった。「場の空気を読め」とか「空気が読めないヤツ」という様に否定的な言い方で使われることが多いが用は「察する」ということ。「皆が思っていること」を察し、それを踏まえて行動決定するよう促す言葉を指していると言われています。

※革新