〜視点〜

板金加工に対する新たなニーズ
農業機械業界で顕在化

 8 月号は農業機械の板金部材調達の特集ということで、トラクタ、コンバイン、田植機、耕うん機、乾燥機、精米機、籾すり機などを製造する農機メーカーと、その板金サプライヤーを回った。お米に象徴される日本の農業と共に発展してきた業界だけにメーカーの歴史は古く、創業から1 世紀以上を経た企業もある。しかし、農家戸数が激減し営農集団をはじめとした大規模農家が増える中で農業機械市場も大きく変わってきている。特に平成9 年に農業機械業界が構造不況業種に認定された以降は、業界そのものが構造不況業になってしまった。その後、中国をはじめとした海外市場の開拓、「食」に対する消費者の嗜好が本物指向に変化する中で、業界では家庭用の精米機や米の品質を検査する選別機など直接消費者に近い商品を開発することによって新たな市場を創造しようとしている。そんな中で農業機械に占める板金部材の割合は他の業種と比較しても意外に高いことが判明した。特に乾燥機や精米機、籾すり機などでは加工品に占める板金部材の割合が7割以上に達しており、板金加工が主力の生産技術となっている。また、「型板金」といわれるように成形加工をプレス成型加工で行い、ピアス、カット、トリム加工をレーザ加工などの型レス加工で行うケースも増えている。これらの工場を歩くといたるところに筐体、フレーム、カバー、ブラケットなどの板金製品が並んでいる。感動ものである。農機具は田植えの時期や刈り取りの収穫期の直前が需要のピークとなるため、季節変動が大きく、生産負荷の平準化も大きな課題となっている。特に日本は気候風土から土壌まで地域によって様ざまに異なるため、同じ農業機械でも使用する地域によって一部仕様が異なる場合が多く、多品種少量生産が通常のこととなっている。市場にリリースされた後も需要家である農家からの様ざまなニーズに対応した設計変更が頻発、そのため、新製品の開発からマイナーチェンジを含む設計変更にすばやく対応するために、板金を内製化したり、サプライヤーに仕事を発注する場合もモジュール単位で発注、組立の合理化を考えたサプライチェーンを構築する動きも顕著になっている。また、開発・設計部門では開発リードタイムを短縮させるためフロントローディング開発による3 次元CAD を使ったデジタルモックアップによる仮想試作を採用する傾向が2000 年以降から顕著になっており、一部でサプライヤーを巻き込んだ3 次元CADデータによるプラットホーム作りも始まり、垂直立ち上げを行うための体制が構築されつつある。そんな中でメーカーとモジュール調達に対応する板金メーカーの関心は単工程の合理化を考えるよりも確定受注から最終の出荷日までの工期をどこまで短縮できるか、多品種少量生産に対応したセット生産をどのように構築するか、という課題。メーカー側では低迷する国内市場を活性化させるためのコストダウンを強化するため、新製品をフロントローディング開発で行うために、社内外のサプライチェーンをどのように再編していくかという課題がある。こうした変化は生産技術に関しても「型板金」という言葉に象徴されるようにプレス加工、板金加工、レーザ加工を複合化させた新たな板金加工を求めるようになっている。
 板金の調達割合が高い業界だけに農業機械業界で顕在化してきた板金加工に対する新たなニーズは今後、他の業界でも同様のトレンドになっていく可能性が高く、板金業界としては目が離せない業界のひとつといえる。