〜視点〜

板金業界に立ちはだかる2極化の壁

 板金業界を回っていると取材後の雑談で「これからの板金業界の動向」を逆取材されるケースが増えてきた。その際に経営者が押しなべて「板金業界の企業数がどのくらいまで減るのか」と質問される。当社が取材する板金工場の多くが、サブアッシーまでを手がける工場が多いだけに、「板金ゼネコン」として板金以外に機械加工部品や樹脂成形製品やゴム製品、木工製品等を自社調達して完成品や完成品一歩手前のモジュールまでの組立に事業拡大しようと考えている。これまでは組立は儲からない、伝票処理費用だけでは利益は出ないと考えられていた。発注元がMRP システムを導入、必要な部材を必要時に必要なセットだけJIT 納品させるようになったこと。組立ラインをセル化して必要なコンポーネントや部材をモジュール生産で配膳、組立現場に直結する製造ラインを構築するようになったこと。それによって板金工場に発注していた部材調達を、モジュール組立を行う組立協力工場に移管して組立協力工場が板金工場に直に部材発注を行うケースが目立ってきた。このままで行けば板金工場は組立協力工場のサプライヤーに位置付けられ、立場が逆転し発注元の孫請けに格落ちするという不安が出てきた。さらに、3 次元CAD が設計上流で活用され、試作工程もファーストトライは3 次元CAD で作成されたソリッドモデルで行うケースが増えてきた。当然、このモデルには板金部材以外に機械加工品や樹脂、ゴムなど様々な非板金部材も存在している。そこから板金部材だけを抽出しても、非板金部材との取り合いが分からなければ本当の意味でのコンカレント・エンジニアリングは出来ない。製造性を検証してコスト、納期、品質を作り込んでいくのであれば製品モデル全体として作りやすさや組立のしやすさを検証しなければならず、また、そこまで行かなければ本格的なコラボレーション・エンジニアリングにはならない。そうしたエンジニアリング・プロセスを組立協力工場がコーディネーター役で行う事には発注元も不安がある。出来れば加工に精通した板金サプライヤーに組立までを取り込んでもらった方がメリットは大きい。そこで、製品構成に占める板金部材の割合にもよるが筐体、フレームといった板金部材を手がける板金工場にモジュール組立までを依頼するケースが増えてきている。そうなれば甘んじて孫請けで生き残るか、自社調達で非板金部材も含めたアッシー組立を行うことで発注元とは切っても切れない関係を構築するか、経営者が問われている。こうした2 極化によって板金業界の構造変化が進むことで「板金ゼネコン」として業界をリードすることができる板金工場が何社くらいに絞り込まれていくのか聞きたい、というのが質問される経営者の本音だ。 板金業界の年間出荷額、従業員数、売上金額、設備力などの事実を積み上げてシミュレーションを行う。すると経営者の頭の中で想定している数値と、取材を通じて想定する数値が意外に近似値になっている場合が多く、筆者も驚くときがある。
 ずばり。その数値.モジュラー組立にまで対応できる板金工場は国内で500 社。1 社売上を10 億円で試算すると500 社で5,000 億円。板金業界の年間出荷額を同じように中小企業が多く、サポートインダストリーでもある金型業界に置き換えてみる。金型業界の年間出荷額が1 兆円強だから板金業界も同程度の金額であるとすれば、500 社の売上合計金額が出荷額に占める割合は50%ということになる。この予測や数字には直感の数字も含まれているが、板金業界のイメージを捕まえるためには参考となる数値だと考えている。2 極化が加速する中で「板金専業」かモジュール組立まで取り込む「板金ゼネコン」に向かうのか、業界にとっては大きな課題が立ちはだかっていると見る。