〜視点〜

日本は※ 1インテリジェンス能力を高めるべきだ

 毎年、正月休みを利用して何冊かの本を読むが、今年はある書評で紹介されていた「インテリジェンス 武器なき戦争」(幻冬舎新書、手嶋龍一・佐藤優)が期待にたがわず面白かった。著者の手嶋氏は元NHKのワシントン特派員、佐藤氏は02年に「ムネオハウス」の建設をめぐる疑惑に端を発し「疑惑のデパート」としてバッシングを受けた鈴木宗男衆議院議員に関連して背任・偽計業務妨害で逮捕起訴され、現在控訴審を闘っている元外交官である。
 太平洋戦争で日本の外務省および海軍の暗号がすべて米国に解読され、負けるべくして負けたことを公文書館に保存されている様々な外交文章を検証することで解き明かしている。太平洋戦争の火蓋を切ったハワイ・真珠湾の意表をつく攻撃がアメリカ側に事前に捕捉されていたがゆえに、攻撃そのものが日本に先に手を出させて、「パールハーバーを忘れるな」という合言葉で、アメリカが参戦するための世論形成の謀略だったと分析している。アメリカは連合艦隊がアリューシャン列島のヒトカップ湾に集結した時からずっと通信電波を傍受し暗号を解読していたという。しかし、その機密情報をワシントンは把握していたが、ハワイの太平洋艦隊司令部には知らされていなかった。数年前に公開されたハリウッド映画「パール・ハーバー」でもそうした史実には触れられず、日本軍の意表をつく攻撃を非難するストーリーが展開されていたが、事実は違っていたことは良く知られている。著者らはこうした事実に基づき、米ソ冷戦が終焉し各国の国益が入り乱れるポスト冷戦期には、秘密情報、諜報などと訳されるインテリジェンスが非常に重要になる。外交、軍事、経済の戦略的展開を図る上でインテリジェンスが欠かせないと語っている。インテリジェンスとはインフォメーション(生情報)からの情報のエキスであり、それは文脈とか行間を読む力でもある。ところが日本の外交ではこのインテリジェンス能力が低いといわれている。それゆえ日本はインテリジェンス能力をもっと高めるべきだと著者らは発言している。
 それからは日本の対ロ外交に話が及び、鈴木・佐藤組と外務省の※ 2 エスタブリシュメントとの間を巡る全面戦争へと発展する経緯を紹介し、ムネオハウス疑惑から佐藤氏が激しく批判する検察の「国策捜査」にまで話が及んでいく。この後の話も実に面白く、私自身も当時はマスコミを含めた世間の鈴木宗男議員バッシングに乗せられていたということを知ることになった。
 詳細は著作を読まれることをお勧めするが、この著作を読んで改めてインテリジェンスの本質を知らされた。あらゆる情報が飛び交う中で情報のエキスをどのように分析し交渉に役立てていくかということを認識した。タウンミーティングなどという悪しき※ 3 ポピュリズムの影響が日本をだめにしていることがよく解る。そこで、自戒をこめて我々業界ジャーナリストにもこのインテリジェンスが強く求められていることを再認識した。

※1知性、知能、情報・知識を操作する能力
※2既成の権力組織、体制、主流派
※3民主主義