板金論壇

天を相手に己を尽くす ― 西郷隆盛の遺訓に学ぶ

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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大河ドラマに思うこと

日曜夜に放送している2021年大河ドラマ「青天を衝け」は、若き心で挑戦を続けた日本資本主義の父・渋沢栄一の生涯を描いています。ご覧になっている方も多いことと思います。

大河ではこれまでにも明治維新の傑物をさまざまな視点で描いてきましたが、今回の渋沢栄一は以前取り上げられた岩崎弥太郎とはちがって、幕臣の立場でありながらパリ万博に参加し、西欧の進んだ資本主義経済を学び、日本の産業界の発展、振興に多大な功績を残した人物だけに毎回楽しみに見ています。

激動の明治維新にはさまざまな人物が登場しますが、小説やドラマとして描かれることで身近な存在として感じられます。それとともに、自分たちの曽祖父の時代のことなので親近感もあるようです。そのせいか歴史に登場した人物の生き方に憧れ、彼らが残した遺訓に共感を覚えることもあります。

「敬天愛人」を信条にした西郷隆盛

中でも西郷隆盛は、その生涯を通じて「敬天愛人」という言葉を信条に、天を敬い人に対し慈愛の心を持っていた人物として注目してきました。幕末から明治維新という時代の大きな渦に翻弄されながらも、いかにみずからに忠実で自分が生きた爪痕を残そうかと必死に生きた人物だったと思います。

以前、西郷が別府晋介に介錯を頼んで自決したとされている鹿児島県城山町を訪ねた時、自分の決断ひとつが自分や周囲の人々の命に関わるという中で先を見通し、方向性を決めることはとても勇気のいることだ、とあらためて感じました。維新を興したものの新政府の政策に不満を持つ旧士族とともに政府軍と戦った西郷の葛藤はいかばかりであったろうかと思いを馳せました。

また、討幕軍を指揮する西郷が幕臣である勝海舟と江戸城総攻撃の直前に品川沖で会談を行い、「江戸城無血開城」を成し遂げたことは有名です。西郷は仁義を貫き、礼節を重んじ、人としての道を踏みはずすまいと自分を戒め、その決断をしたのだと思います。

「過ちを改むるに、自ら過つたとさへ思ひ付かば、夫れにて善し」

西郷の折々の発言や言葉が「南洲翁遺訓」として紹介されています。その中の「過ちを改むるに、自ら過つたとさへ思ひ付かば、夫れにて善し、其の事をば棄て顧みず、直に一歩踏み出す可し。過を悔しく思ひ、取り繕はんとて心配するは、譬へば茶碗を割り、其の欠けを集め合せ見るも同にて、詮もなきこと也」 ― まちがったことをしてしまったことを嘆いたり、悔やんだりしても過去は変えられない。それならば無為に過去を顧みるのではなく、これからできることを最大限に行うべき、という言葉があります。

私は社会人になってから邂逅した機械商社の経営者からこの遺訓を教わりました。以来、この言葉に助けられたことが2度、3度とあります。不安がなかったのではなく、失敗を糧にして前へ前へと進んで来たからこそ今がある、ということを強く感じています。

つづきは本誌2021年5月号でご購読下さい。

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