板金論壇

“ハイテク”と“ローテク”の融合が求められる溶接

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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溶接熟練技能のIoTによるデジタル化

東京都内の町工場3社が連携して、溶接技能者の育成と「客観的な品質基準」の確立、3社間の「溶接技術の標準化」を進める目的で、「TIG溶接熟練技能のIoTによるデジタル化」に取り組んでいる。

量産工場では溶接作業の自動化・ロボット化が進んでいるが、試作品や単品などの多品種少量生産では今でも溶接技能者の属人的なスキルが頼り。しかし、熟練技能を持ったベテラン作業者が次々と引退することで、現場から熟練技能が失われつつある。そのため中小製造業―特に都内の中小製造業者は、事業継続のためにも溶接人材の確保と育成が急務となっている。

溶接の技能伝承はこれまで、教える側と教わる側の長い長い辛抱と根気が必要とされていた。ベテラン作業者はマンツーマンで若い作業者に「やってみせ、言って聞かせて、させてみる」を地で行くような教育を行い、一人前の溶接技能者を育成するまでに多くの時間をかけてきた。だからこそ、長い時間で尊敬の念や相互の信頼関係が育まれ、それがさらなる力を生み出して助け合う―といったことも見られていた。

そうした中で、この町工場3社は、溶接の熟練技能や金属の溶融状態などを可視化することによって、より効率的・効果的な技能訓練を行うとともに、得られたデータを活用して溶接作業の生産性向上・品質向上を実現するための技術開発に取り組んだ。

動画とパラメーターを組み合わせて記録

そしてでき上がったのが「IoT溶接ブース」。多方向から溶接作業を撮影・記録し、ベテラン作業者の熟練技能をデジタル化・共有する。言語化・数値化が難しいとされてきた溶接熟練技能を可視化することで、ベテラン作業者と若い作業者との間のコミュニケーションが円滑になり、より正確でより早い技能伝承の実現を目指している。

「IoT溶接ブース」では、溶接作業の様子を正面・天井・側面の3方向と、作業者がかぶる溶接面(溶接マスク)に装着した遮光フィルター付きカメラから撮影する。これまでは、溶接作業中は作業者の手元を斜めから見ることしかできなかったが、作業姿勢と手元、溶接ブースの様子を複数のカメラで同時に撮影し、じっくり見ることができるので、適切なアドバイスや不良の原因究明もできるようになる。

さらに、電流値や通電時間などのパラメーターと組み合わせることで、ベテラン作業者の技能をより詳細に分析することが可能になる。動画とパラメーターをクラウドサーバーにアップロードし、そのデータを各社が共有・活用することで、求められる強度などに応じた最適な加工法を提示でき、「客観的な品質基準」の確立が可能になる。

また、検証データを確認することで、3社間の「溶接技術の標準化」も進めることもできる。従来の溶接作業は作業者の経験に基づく感覚や勘に頼っている場合が多かったが、可視化とデジタル化によって作業の標準化が可能になるとともに、教育ツールとしても活用できる。

こうしたIoTツールを各社が活用することで、3社の溶接作業者の人材育成、溶接技能の均一化に向けた取り組みを進めていこうとしている。

すでに3社のうちの1社はスポット溶接の作業条件(電流値・通電時間・加圧力)と接合強度(引張り強度)の関係性を独自に検証。社内の複数のスポット溶接機と素材に対応するデータを収集し、スポット溶接作業に求められる強度に応じた加工法が提示できる「溶接品質基準」の確立が進んでいる。

つづきは本誌2020年11月号でご購読下さい。

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