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「攻め」と「守り」の両翼作戦を考える

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中小製造業の設備投資が冷え込んでいる。

日本政策金融公庫の「中小製造業設備投資動向調査」によると、2019年度の中小製造業の国内設備投資額は前年度実績に比べて△10.4%の2兆4,710億円となった。2020年度は2019年度実績から△17.5%の2兆391億円になる見通しだ。2018年度実績と比べると△26.0%という大幅な落ち込みとなる。

業種別の設備投資動向を見ると、2019年度実績は前年度と比較して17業種中12業種で減少した。プラスになったのは業務用機械(+9.7%)、電気機器(+4.2%)、窯業・土石(+21.9%)、パルプ・紙(+1.5%)、その他(+27.7%)となっている。

2020年度計画はさらにきびしい状況となる。全17業種のうち化学(+10.8%)、パルプ・紙(+0.8%)以外は軒並み2019年度を下まわる予想で、金属製品(△26.0%)、生産用機械(△16.9%)、輸送用機械(△33.1%)、食料品(△9.1%減)、プラスチック(△24.0%) ― となっている。

設備投資の目的を見ると、「更新、維持・補修」の構成比が最も高く、2019年度実績では35.1%、2020年度当初計画では37.1%と前年度比+2.0ポイントとなった。2020年度当初計画では、「新製品の生産、新規事業への進出、研究開発」が前年度比+1.2ポイントと増加した一方、「能力拡充」(△1.7ポイント)や「省力化・合理化」(△0.8ポイント)は低下した。

資本力に乏しい中小製造企業が大型設備投資の判断とタイミングを誤ると、会社の衰退リスクが飛躍的に高まる。コロナ禍で視界不良が続く中、手元資金を確保しようとする動きが強まり、設備投資を躊躇する企業が増えている。

板金業界でも同様のケースがみられる。日本鍛圧機械工業会によると、8月度の受注総合計は160.6億円(前年同月比△30.0%)で、前年割れは18カ月連続となった。板金系機械の受注額は44.7億円(同△50.6%)となっている。

そんな中、「ピンチをチャンスに変える」というポジティブな発想で、大型投資を行う経営者もいる。

ある企業はこの5年ほど、毎年のように1億円以上の大型投資を続けており、今年度は塗装工場を竣工する。直近5年間の売上高は毎年2ケタ成長を続けており、5年で2倍ちかい売上を達成した。営業開拓を徹底し、得意先数もこの5年で倍増している。この経営者は「多くのお客さまに必要とされる企業であるためには、設備力を強化してQ,C,D対応する以外に道はない」と、社員の数を大きく増やさずに機械化・自動化で能力を増強、品質向上を目指している。そして今年度は、加工から組立、塗装までの一貫生産体制を構築するために、塗装工場の建設を決断した。

別の経営者は、成長産業である医療機器関連の仕事を取り込むために、新工場建設と大型加工設備の導入を決断した。これまで継続取引していた金融機器関連の仕事は、キャッシュレス決済やオンライン銀行の普及で減少した。市場の変化と受注変動に対応した工場・生産設備に乗り換えるため、10億円超えの大型投資を決断。しかも、新型コロナウイルスによる景気後退への対応として、国や自治体が打ち出しているさまざまな支援制度を活用し、投資額の3/8を補助金で賄うことにも成功した。

新工場建設や大型設備の導入などの大型設備投資は、企業の成長過程で必ず通る道だ。しかし、タイミングを誤ると、経営に行き詰まる事態を招きかねない。慎重を期す必要はあるが、経営は「攻め」と「守り」の両翼作戦を立てていかなければ成長できない。それだけに企業経営者には投資判断が求められている。

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