板金論壇

経営は植木職人の仕事に似たり

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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企業買収と再生に取り組んだ鮎川義介

12月19日の日本経済新聞の朝刊「春秋」で、日産自動車や日本鉱業などの企業グループをつくった鮎川義介が、著書の中で経営を植木職人の仕事にたとえ、「枯れかかった珍木や、日陰で伸びない佳草(よぐさ)が見つかれば、これを安価に仕入れて、土を変え、手入れを施し ― 」と、企業の買収と再生への取り組みについて記述していることが紹介されていました。

記事では鮎川翁が育ててきた日産の現状 ― ルノーとの関係見直しをめぐる話題へと展開していました。私は鮎川翁の著書を読んではいませんでしたが、経営者を植木職人にたとえる記述に興味を持ちました。実は、私が今のマシニスト出版を創業することになった四十数年前にお世話になった経営者が、私に同じような話をしてくれたことがあるからです。

経営は盆栽と同じ

私は大学卒業後、ある新聞社に就職しました。夢も希望もある若き青年だった日、取材で訪れるいろいろな企業を見ているうちに、「自分たちも起業できるのではないだろうか」と先輩や同期と夢を語り明かしました。そして、当時の先輩と会社を辞めて新しく出版社を起業することを決意しました。

まだ世間に出て数年足らず、無謀だと諫められるのではないかと、取材を通じて知り合ったある経営者に相談をしました。前述の鮎川翁とは視点がちがっていましたが、その方からは「私は盆栽が好きで、いろいろな木々を山から持ってきては鉢植えにして、枝には針金を当てて好きな形に曲げて、年月を得て思うよう形の盆栽に仕上げていくのが何よりも楽しい。経営も同じで、君たちを木にたとえれば、まだまだ若木。それをこれからどんな形に育てていくのかは、盆栽を育てるのと一緒だ」と言われました。そして、焦らず、慌てず、着実に仕事をするように、というアドバイスもいただきました。

話はとんとん拍子で進み、不要なお金は使わないほうが良いと言って、ご自身が所有しておられた不動産物件を仕事場として廉価で貸してくださり、私たちはそのご厚意に甘えて、そこを事務所に新会社をスタートしました。

創業の日、その方が大きな木から削り出した白木に、ご自身で大書された墨痕鮮やかな新社名の看板を持って来られました。経験も少ない青年たちの門出を祝う気持ちで製作し、持参してくださったのです。その思いの深さに大きな喜びを覚えました。木を愛しておられる方だからこそ、天然の木材に自筆で大書してくださったようです。私たちは、これから先、どんな仕事を手がけるか打ち合わせをしていた矢先のことだったので、びっくりするとともに大変感動しました。

当初はご意見番のような立場で相談に乗っていただきました。やがて、私たちははやる気持ちを抑えられず、その方とは路線や方針をめぐって幾度となく話し合いをしましたが、想いが異なってきてしまい、私たちはその事務所を出て、今日に至ります。

いろいろな苦労はともないましたが、自分たちが思うように枝を伸ばし、根を張って、今日まで会社を続けてくることができたと、その時の決断を悔やんではいません。あのまま支援を受け、事業を続けていたら、どのようになっていたのかわかりませんが、伸ばそうと思った枝を切られたり、枝振りを上げるために針金でがんじがらめにされ、思わぬ方へ枝を伸ばしていたかもしれません。

つづきは本誌2019年2月号でご購読下さい。

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