板金論壇

企業の存在理由を明らかにする「企業理念」策定に悩む経営者

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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「企業理念」=企業の存在理由

最近いろいろな経営者とお会いして気がつくのは、経営者が理念経営を目指して日夜ご苦労されているということです。理念には「考え方」や「本質的な考え」といった意味があります。

企業理念とは、その会社の理念 ― つまり「考え方」を表したもので、もっと言えば、「何のために会社を経営するか」という大義名分です。その意味でいえば、企業理念は全従業員が共通認識すべき「会社の存在理由」「会社の定義」とも言えるものです。そのため、多くの企業が企業理念を掲げるようになっています。

また、企業理念のなかには「企業の方向性」「従業員の行動規範」「社風の良質化」「社会への貢献」などが含まれており、企業が目指すべきビジョンを示唆するともいわれています。だからこそ、理念経営はビジョナリー経営ともいわれます。会社の企業理念を読めば、その企業がどのような考え方で活動を行っているか、その会社の従業員がどのような気概を持って仕事に従事しているかがわかります。企業理念には、企業のイメージをつくる目的や、企業アピールの側面もあります。社外に対してはブランドイメージを植えつける役割、社内に対しては意識を統一する役割を担っているともいえます。

ひとり相撲で理念を決める経営者

だからこそ、企業理念を策定する際に経営者は、勉強会に出て知識を吸収したり、外部コンサルタントを招いて「思い」の具現化を示す言葉や表現の仕方を請うたり、さまざまな経営書などを読みすすめたりして、自社に相応しい理念を考えておられます。

ところが、往々にして陥りやすいのが、せっかくつくった企業理念がひとり相撲の言葉遊びになってしまうことです。経営者は真剣で、「遊び」という意識はまったくありません。しかし、従業員は日々の仕事に追われ、実作業だけで目一杯、「仕事に取り組む気概」すら持てないのが実情です。

そんななか、社長から突然、企業理念を聞かされ、遵守することが求められる。従業員からすれば、日々の仕事の公平さ、計画性の重要さなどの問題を解決しないまま、社長がひとりで策定した企業の理念など、現実と乖離した雲の上の話のように聞こえてしまうのも無理はありません。そしてこれが「この社長にはついていけない」「社長は何にもわかっていない」という気持ちを従業員に起こさせてしまうこともあります。

ある経営者は、創業者である父から経営を任されたときに、従業員の大半がモノづくりに対する誇りを持てず、やる気をなくしている実態を見て愕然とされたということです。そこでその社長は早速、社長方針として企業理念を発表し、毎朝の朝礼でそれを従業員全員で唱和することにしたそうです。

傍から見ると、この会社は、経営者も従業員も同じ意識をもって仕事に取り組んでいて素晴らしい、と評価されるかもしれません。ところが、大半の従業員には、何のための理念かも理解されず、唱和される言葉だけが空回り、社長ひとりが取り残された状態だった、と言われていました。

「そこで、改めて中堅幹部社員を集め、従業員の抱える問題を聞くようになった」とその社長はおっしゃっていました。社長の独りよがりを改め、従業員一人ひとりと面談して、仕事への思いや会社への期待などをヒアリングされたそうです。そのなかで、多くの従業員が日々の仕事に気概を持って取り組んでおらず、成り行きや惰性で働いていたことがわかったそうです。

そこで、自分たちが製作した製品が、社会のどんなところで使われているのか、お客さまの工場などを見学して学習。自分たちがつくった部品や製品が、カタチを変え、商品として店頭に並んだり、大きな機械の一部として重要な働きをしたりしていることを確認しました。そういった確認を通して、自分たちの仕事が社会に役立っていることを認識するようになり、それからは従業員たちが働く目的や会社が目指すべき方向性などを理解するようになったとおっしゃっていました。

こうした過程を経て、社内に「理念委員会」を発足させ、半年をかけて企業理念を策定。会社はどのような考え方で活動を行っていくか、全従業員がどのような気概を持って仕事に従事していかなければいけないか、企業理念としてまとめていったということです。

つづきは本誌2019年1月号でご購読下さい。

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