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米中貿易摩擦がもたらす不確実性の世界

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日本国内の景気は、相変わらず堅調に推移しています。ところが日銀短観は、今年1月から2四半期連続で悪化しています。2四半期連続の悪化は、5年半ぶりとなります。

その要因は、エスカレートするトランプ政権の保護主義。とりわけ米中貿易摩擦への懸念が広がって、景気の先行きにも不透明感が増してきました。米国は知的財産権侵害を理由に、中国からの輸入品500億ドル分に25%の追加関税を課すことを決め、そのうち340億ドル分の追加関税を実施しました。これに対し、中国は報復措置として、同額分の米国からの輸入品に同率の25%の追加関税を実施すると発表しました。

米国が今回、追加関税の対象とするのは818品目で、自動車・産業用ロボット・半導体などハイテク製品が中心となっています。中国側は、大豆・小麦・牛肉・自動車など545品目を対象に、米国からの輸入品に追加関税を課します。

トランプ政権は、中国側の出方次第では最大5,000億ドル分の中国からの全輸入品に10%の制裁関税を課す可能性を示唆しており、仮にそうした事態になれば、両国が報復関税を応酬し、米中経済戦争に発展してしまいます。そうなれば両国の経済に与える影響は相当深刻なものになることが予想されます。

現在の状況は、日本経済にとって黄色信号が点滅している状態といえます。もし、中国から米国に輸出されるスマートフォンが追加関税の対象になれば、中国でのスマートフォン生産が減少を強いられ、スマートフォン関連部品を供給する日本企業の業績にも大きな影響を与えることになります。「スーパーサイクル」で、好景気が5年は続くと言われてきた半導体業界も、一気に収縮する可能性があります。

要因は異なりますが、世界最大の半導体メーカーであるインテルが設備投資計画の下方修正を2四半期連続で発表したことで、半導体製造装置の需要に大きな影響が出ています。装置メーカーから内示されていた台数が、発表後に削減された例も見受けられています。米中貿易摩擦が加速すれば、計画自体の取りやめ、計画縮小なども考えられます。半年前のフォーキャストでは上昇傾向だった発注数量が確定段階で減少することも、経営者は想定しておかなければならなくなっています。

今の時代は「VUCA」(ブーカ)と称されます。「Volatility」(激動)、「Uncertainty」(不確実性)、「Complexity」(複雑性)、「Ambiguity」(不透明性)の頭文字をつなげた言葉だそうです。視界不良な時代だからこそ、経営者は会社の青写真を早めにしっかりと描くことが重要となっています。

不確実性が高い時代には、「世界で何を起こっているか」を把握するために見分を拡げ、研鑽・検証するなど、みずからを教育し続けることが肝要です。そして、意識的に自分と対極の立場にある人や企業、地域の人と対話を重ねることが重要です。つまり、立場を変えて、相手の立場になって考えてみる―ひらたく言えば、発注する側と受注する側の思惑の真意が見えてきます。また、地域の障壁を乗り越えて対話してみると、いろいろなことが見えてくると思います。

不確実性が増している状況で、経営者は往々にして立ちすくみがちになります。今動いて損害を出すよりは、しばらく静観しようと考えます。しかし今は、動かなければ問題を解決できないどころか、さらに状況が悪化してしまいます。行動することで、複雑なものを紐解くヒントを得やすくなり、構造化することで解決策を見出し、苦境を打破するきっかけを得ることができます。よって、行動が最後には必要となります。

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