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Industrie 4.0のユーザーメリットは暗中模索

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9月18日から23日まで、金属加工分野では世界最大の見本市「EMO Hannover 2017」が開催された。世界44カ国・地域から2,200社以上が出展し、日本からも84社が出展した。ドイツ国外から13万人が来場し、欧州を中心に注目度の高い展示会となった。

今回は工作機械、生産システム、精密加工機械、自動倉庫、搬送装置、コンピュータ技術、工業用電子装置、周辺装置、そして「Industrie 4.0」分野のあらゆるソリューションとネットワーク型生産システム―スマートファクトリーに対応した展示が期待されていた。

18日の開会式には、ドイツ連邦政府のシュタインマイヤー大統領が出席して挨拶、Industrie 4.0をはじめ、オープンなシステムの重要性を強調した。

しかし、Industrie 4.0への対応をうたった展示はみられたが、具体的なユーザーメリットについては暗中模索の状態ということもあって、特に欧州企業からはIndustrie 4.0への具体的な取り組みを明確に意識した展示は少なく、関係者によると前回のハノーバー開催時よりも落ち着いた印象だったという。会場を訪れた業界関係者は「旗振り役の一部メーカーを除き、Industrie 4.0をどのように自分のものとするか、手さぐりの印象を受けた。この点では、むしろ日本企業の展示内容の方が提案が明確で、一歩進んでいるように感じた」と感想を述べていた。

Industrie 4.0については、最近は日本でも同様にいわれてきているが、ユーザーにとってのメリットを十分に訴求できていない現状がある。稼働状況が“見える化”されることで、サプライヤーは価格交渉で発注元から指摘を受けることに懸念を持っている。また、さまざまな企業同士がつながることで、自社固有の加工ノウハウが流出する危険性や、ノウハウにまつわる知財管理が曖昧になるといった指摘も出ている。

また、予知・予防保全ができても、最終的にはサービスマンが修理を行うので、サービス体制の見直しも必要になってくる。良いことばかりが強調されるが、負の部分に目を向けると、暗中模索というのが実態だ。それだけに出展者も明確な訴求ができないでいるようだ。

一方、世界的に労働力不足が問題になっている中で、ロボットを活用した工具・工作物関連の自動化システムとの連携や、AIとビッグデータを活用した見積り、加工のスマート化の出展は目立っていた。

また、3Dプリンターを中心に、積層造形(Additive Manufacturing)装置の展示が充実していた。金属積層・切削・焼入れに1台で対応できる製品や、大型部品の加工にも対応できる製品も数多く出展され、実用化へ向けて大きく進歩している状況が見られた。

また、フランス、イギリス、中国などが2040年以降は電気自動車(EV)以外の販売を認めない方針を打ち出していることから、「EVシフト」に対する強い関心が出展企業の間でみられた。EMO開催と同時期にフランクフルトでモーターショーが開催されたこともあり、ますます「EVシフト」に対して注目が集まった。

ガソリン車に比べ、電気自動車は部品点数が約37%少なくなるといわれ、3万点といわれる現在の車の部品点数が、1万点以上減ることになる。「EVシフト」が本格的に進めば、工作機械業界としても大きな転機になると、先行きに対する関心の高さが示された。

さらに、5軸制御の工作機械を中心に、多軸・複合工作機械が数多く出展された。複合機能のラインアップも多岐にわたり、工程集約・複合加工に対するニーズの高まりが感じられた。

こうしたトレンドは今後、板金加工業界にも伝播することは間違いない。11月6日から米国・シカゴで開催される「FABTECH 2017」の出展傾向に注目したい。

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