板金論壇

三現主義は教育現場でも息づいている

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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“現場・現物・現実”に即した話

経営者の方々とお話をすると「机上の空論だけではダメ。“現場・現物・現実”に即した話をしなければいけない」という、いわゆる三現主義の話が良く出てきます。必ず現場に足を運び、必ず現物を手に取り、現実を自分の目で見て確認する。問題解決においては、この考え方が非常に大切だということを否定する人はいないでしょう。しかし、現実の中では机上の空論ばかりの議論が多いのも事実です。こうした現実は企業内にとどまらず、あらゆる場面で日常的に発生しています。

先日、ある工学大学の教授と会話していたところ、こんな事例をお聞きしました。

「卒業研究をしている学生と話していると『教科書には、このように書いてありました。先生からはこんなことを教えていただきました。シミュレーションではこうなりました』ということがよく聞かれます。これは、自身が実験や体験で検証し導き出した事象や結果ではなく、机の上でパソコンからいろいろなデータを検索し、それらをまとめて、うまくつくり上げているように見えます。現実は、教科書やデータだけでは見えてこない事象が多い。『実体験』という愚直なプロセスを経ずしては、何か大きなモノが欠落しているように思います。実際の現場に行って、現物を手に取り、現実を知ることで、机上では体験できなかった温度・時間・疲労度などを知ることができ、データだけでは見つけることができなかった問題を捉えることができる。これが問題解決の大事なプロセスです」。

「そのため、私の研究室では卒業研究とは別に、4年次になった学生には、与えられた課題製品を加工するため、金型設計から、加工、組立までを行った金型を使ってもらいます。その金型で実際にプレス加工を行い、出来上がった製品が課題の図面どおりに出来上がっているか検査して完了 ― までを必須カリキュラムにしています。週のうち半分が、そのための演習、あとの半分が卒業研究のための研究時間。私の研究室では、ほとんど休みなく勉強し研鑽する学生が多いです」。

課題を共有する工場見学の勧め

「私が引率して企業訪問する際、事前に訪問先企業にお願いして、工場が抱える課題や生産のボトルネックなどをヒアリングしておきます。その課題を顕在化させ、社員の方々と学生は課題を共有、問題発生のメカニズムから、課題解決のヒントを見つけるような企業見学をします。学生自身の目で“現場・現物・現実”を見ることによって、起こっている問題に対して、どのように解決できるのか考えさせ、自分たちなりの提案のポイントを絞り込ませ、後日、訪問した企業へレポートを提出するようにします」。

「レポートの結果は、日々取り組んでいる社員さんとは、かけ離れたレベルであることや、本質的な課題解決には程遠い場合も多いことも事実です。しかし、それがきっかけで、産学共同研究に発展する場合もあります。企業も大学も、机上の空論を積み重ねただけでは結果には繋がりません。企業のみならず、大学の教育プログラムにも三現主義に基づいた教育や研究が重要です」。教授はご自身にも言い聞かせるようにそんな話をされた。

つづきは本誌2017年8月号でご購読下さい。

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