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「stay hungry, stay foolish」を糧に一日一生

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最近、退職後のセカンドステージで新たに大学に入り直して、続けたかった研究や勉学に臨まれたおふたりの話をしたい。在職時からの旧知の間柄であったので、退職後の動向が少なからず気になっていた。

思い起こしたのが、スティーブ・ジョブズが2005年6月、スタンフォード大学の卒業式に招かれてスピーチした時の締めで述べた言葉、「stay hungry, stay foolish」(いつまでも飢えていろ、バカでいろ)―意訳すれば「現状に満足するな、小賢しくなるな」とか、「いつまでも青臭く、常識にとらわれることなく、奇想天外な発想を持て」など、アップルの創業者らしい、印象的なフレーズだったと記憶している。

私たちは年を重ねると安全を求め冒険をしなくなる。しかし、平均寿命が80歳を超えた今では65歳で定年を迎えたとしても健康寿命は20年以上ある。先細りの年金に頼るわけにもいかず、働けるうちは日銭を稼ぐとともに、自分の意思で強く生きていく姿勢が必要だ。そんな人々にとって「stay hungry, stay foolish」の言葉は励みになる。

先日10年ぶりに小学校の同窓会に参加したが、卒業して50年以上経つと生き方が姿形にあらわれる。大学やカルチャー教室へ通う人もいれば、日々気ままに暮らしている人も多くいた。中には自分史を執筆、自費出版ながら書籍を出す人もいた。また、「退官はまだ先の70歳、それまでは長年の研究を続ける」と言う大学教授もいて、自己紹介でサミュエル・ウルマンの詩『青春』の一節「青春とは人生のある期間を言うのではなく心の様相を言うのだ」の序章を朗読し、参加者から喝采を集めた人もいた。そのような立派な格言を引用する友人に対して、私は「一日一生―死を感じて今日を生きよう。今日が人生最後の日であっても希望をもって生きる、そんな生き方をしたい」。幾分厭世的な発言ととられかねない、揶揄されかねないと危惧しながらも心情を吐露した。

そんな自分だが、4月になっておふたりの知り合いから「大学へ入学した」「大学の研究室へ招聘され2年目になりました」というメールをいただき、元気をいただくことができた。おひとりは定年を控え、セカンドステージを充実させるため早期退職。母校の大学へ社会人学生として入学された。もうおひとりはライフワークとして取り組まれていた研究が評価され、退職後に大学の研究室に特任研究員として招聘され、今は充実した研究生活を過ごされている。学術的に裏付けられれば重要な論文になりそうな気配だ。おふたりとも持論の思想を持ち、実年齢に惑わされないイキイキとした気持ちは青年そのもの。在野にて、それでも初心の仕事をなんとか貫いている筆者にとって、青春時代の夢の続きを追っている姿が羨ましく強い意志が感じられた。おふたりともFacebookで近況報告されており、勉学や研究の経緯を知ることができるので、私以外にも様々な方がコメントされている。その中には「ご自分の使命というか天命を悟っての選択なのでしょうね」とコメントされている方もあり、それぞれがおふたりの行動に感心を持ち、エールを送っておられるのに安心した。

そんな時、編集制作を依頼しているある大学の名誉教授の原稿に「stay hungry, stay foolish」と記されている偶然に驚いた。教授は金属加工の将来展望を書かれ「モノづくりの復権を目指すためには『stay hungry, stay foolish』という言葉がすべてを物語っている」と結ばれていた。

絶妙な附合に、このフレーズが思い起こされた。ぜひ、読者の方々にも老若を問わず、この言葉の意味をしっかりと受け止めていただけたらと思います。

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