視点

「理念経営」(ビジョナリー経営)のすすめ

LINEで送る
Pocket

最近、“企業理念”(企業が目指す目的と企業としての価値観)を明らかにして、社員全員で共有、その実現を追求する経営手法として、「理念経営」(ビジョナリー経営)に取り組む板金企業が増えている。理念経営のゴールは本来、「全員が生き生きと働き、成長期にも危機にも強い、永続する会社」と言われている。めまぐるしい環境変化と社長交代によって、経営トップが創業者から2代目へ、2代目から3代目へと継承される企業が増えていることも「理念経営」の普及に影響していると思われる。

先日うかがった企業では、10年前に2代目社長に就任された方にお目にかかった。大学を出て大手企業を経て2000年に入社、今年47歳の脂が乗った経営者だ。10年前は、会長の薫陶を受けて育ってきた社員が多く、自分の考えをすんなりとは聞いてもらえずに経営の舵取りに苦労したという。その時に社長が取り組んだのが、経営講習会で学んだ「理念経営」だった。

社是・企業理念・行動規範・ビジョン・社史などを整理した冊子を編さんして全社員に配布した。それまでも社是や企業理念はあったが、行動規範やビジョンは盛り込まれていなかった。そこで会社の沿革をさかのぼって、創業者が目指してきた企業理念、そして代替わりした2代目社長が目指す近未来のあるべき会社の姿を言葉で表現した。そればかりではなく、社長自身も会社を知るための勉強会に積極的に参加した。

こうした努力を重ねることで、当初は「社長の言っていることは理解できない。社長の話は難しい」と避けていた社員たちも、次第に社長の話に耳を傾けるようになったという。併せて公共展にも積極的に参加し、社員に交代でブース担当として来場者対応をさせた。そうやって外部のお客さまから自分たちの会社がどのように評価されているのかを知ることで、「自分たちの会社が何を目指しているのか」「何を評価されて仕事をいただいているのか」「これからはどんな会社に生まれ変わっていかなければならないのか」「仕事を継続的に受注するにはどう変わらなければいけないのか」―お客さまの生の声を聞く機会を多く持った。

社長が明確な方向性を示したことで、幹部から社員へと着実に理念が浸透していった。社内での意識改革も進んだ。そして、自分たちが目指す目的や価値観を共有することで「もっとやろう」と切磋琢磨し合い、社員全員の力を結集できるようになった。社長から新入社員まで全員が、互いに自分たちの「もっとやろう」を追求する経営が徐々に実現していったという。その結果、同社では社員が自分の友人に自社のすばらしさをPRすることにより、口コミで同社の社風が広まり、求人活動に際しても苦労はしなくなったという。

日本企業の多くは、古くから「信頼第一」「三方よし」「先義後利」など、利益第一よりも取引先との「義」を重んじてきた。この会社も企業理念を時々見直しては、時代に相応しい文言に書き換えているという。そして今は、「日本一の中小企業を目指す」。品質を第一に掲げ、品質で日本一を目指そうとしている。日本一になるためには、モノづくりで日本一を目指さなければならない。そのためには社員のスキルアップを目指すとともに、社員のモラル、マナー、モチベーションに関しても日本一を目指している。

日本の製造業にはもともと、前後の工程に目配りしながら思いやりを持って仕事のバトンリレーができる能力があり、その長所を伸ばしつつ、トップが企業理念を明確にして、それをあらゆる機会を通じて社員に徹底していくことが重要となっている。

LINEで送る
Pocket

関連記事

視点記事一覧はこちらから