板金論壇

若い世代の活躍に期待

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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20数年ぶりの出会い

年の瀬も押し詰まったある日、30代前半の若い事業継承者とじっくり話す機会があった。

彼は大学院を卒業したのちIT関連の企業に勤め、SNSを活用した様々なビジネスに携わってきた。しかし、大正時代に創業され、間もなく創業100年を迎える家業の板金工場を継承するため、勤め先を退社して地元に戻り、父親が代表取締役を務める板金企業に就職した。彼と初めて会ったのは20数年前、父親である現社長に伴われて、大人ばかりの会合に初めて連れてこられたときだった。

その時の対談のテーマは「板金工場の将来」。2時間くらい、喧々諤々の討論会の時は神妙に聞き役に徹していたが、最後のころに私が珍しいゲストに話の続きを振ったところ、小学校5年生だった彼が「自分も大きくなったら家業の板金工場を引き継ぎます」と大きな声で話した。私も参加者もたいそう驚くとともに、大変感動したことを、ついこの間のことのように鮮明に記憶している。

そのため、父親の社長に時々会うと「息子さんは今どうされていますか」と、ついつい聞いてしまう。彼がどのように成長していくのか興味があり、心の片隅で期待していた。大学院を卒業してIT系の会社に入社したことを聞き、私は不思議な縁を感じた。彼の父親、すなわち現社長と同じ道を歩まれている、と。父親である現社長も大学院卒業後はいったん大手メーカーに就職し、社会勉強をしてから実家の家業に戻られた。だから、まだ壮年の面影のある現社長も、不安は感じていなかったのではないだろうか。自分が辿った道を30年後に歩いてくる息子を、きっと感慨無量で迎えたのではないだろうか、と推測する。

彼の道程はこうだ。2015年になってからは月の1/3程度会社に戻るようになり、2016年に入って、いよいよIT系企業を退社し、家業の会社へ入社した。そして板金工場の経営実態を学ぶため、進んで職業訓練法人アマダスクールの短期コースに入校している。実学を学ばれたということを聞き、いよいよ覚悟を決められたのだと安堵したものだ。

時を同じくして、ご本人から弊社に「板金業界のことを学ぶため、Sheetmetal誌のバックナンバーを過去10年分ほどほしい」という連絡があった。過去に遡って学ばれることはすごいと思ったが、話は一旦そこで終った。

それから数カ月たって、ある板金企業の経営者の講演会で20年ぶりに再会し、言葉を交わす機会があった。すでに講師の経営者が経営する板金工場に見学に訪れ、多忙な経営者から「10時間以上にわたっていろいろなことを教えていただきました」と淡々と話しているのに驚かされるとともに、私にも「時間を取っていただければ、いろいろお尋ねしたいことがある」といわれた。たまたま数週間後に同社がある街を訪問する旨を話すと「その時、時間をください」と依頼された。その約束から数週間後、彼に再び会う機会が巡ってきた。

つづきは本誌2017年2月号でご購読下さい。

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