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次世代経営者の変化

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業界の事業継承者の意識が大きく変化してきている。過日も30代前半の事業継承者たちと会話する機会があったが、事業継承者という視点でモノの見方が大きく変わってきていることに気がついた。

ひとつは、初めから経営者として戦略視点で自分の会社の強みと弱み、危機とチャンスをSWOT分析する一方、現在の事業や得意先に関する将来性を考えたポートフォリオを作成、どの事業や得意先の組み合わせが事業発展に最適か、これから会社をどんな方向に進めるべきかを考えておられることだ。

お会いした方々の中には大学のビジネススクールで実践的な経営を学ぶ方もおり、自社の経営戦略を研究テーマにされていた。また、別の経営者は修士課程在学中からベンチャー企業を立ち上げ、卒業後もしばらくその事業を継続、現在はその事業を後輩にバトンタッチ。ご自身は家業の事業継承者として父が経営する会社に入社、しっかり勉強しておられた。

ふたつめは、こうした後継者は父親世代の経営者と比較すると、現場での実務に関して、社員に後れを取っていることを自覚しておられることだ。10年ほど前の後継者には、社員に後ろ指を指されないために、あらゆる職務を完璧にマスターすることをストイックに追求する姿がみられた。しかし今どきの後継者は、現場にいるそれぞれの“プロ社員”をどうしたら上手く活用できるのか、という「経営視点」を優先して考えることで、自らの現場技能を社員以上に高めることに必ずしもこだわっていない。

その一方で、経営者として、どうしたら社員とその家族の生活を守り、そのために会社をどのように経営・発展させるかを真剣に考えている。こうした後継者を“頭でっかち”で、地に足がついていないと批判する見方もある。しかし彼らが、これまでの経営者世代と比べて経営を真剣に考えていないということはなく、ある部分――数値経営により、今風に言えばデジタル化により客観的に判断し、自分がすべきこと、社員に任せて効率を上げるべきこと、それらがどの線で融合するのが社員と自分たちの幸福感・達成感を共有できるか、総合的に分析している点は、優れていると感じた。

そんな彼らが今悩んでいるのが、板金加工業という産業が、これからの産業界で必要とされる産業なのか、構造変化にどう対応していくのか、ということだ。

従来のようなピラミッド構造が崩壊、全体最適を考えた最適調達という考えが一般的となる中で、自社の強みをどのように得意先に提案していけばよいのか、どの産業、どの業界に強みをアピールしていけばよいのかを真剣に考えている。そのため、異業種の公共展や勉強会に頻繁に顔を出し、情報を収集するとともに人脈を広げる努力をしている。

ある後継者は、毎号小誌で紹介された企業に連絡を取って、工場見学に出かけたり、公共展にも盛んに出展している。公共展では、漠然と来場するストリートカスタマーに声をかけるよりも、公共展に出展している企業に的を絞り、会期中は出展者に会社案内を持って営業に歩かれている。

特に、医療機器や航空宇宙といった、将来の見当のつかない分野の公共展に出展することで、市場開拓を目指すケースも見られる。

むろんこうした行動は、先代がしっかりとした経営基盤をつくってくれたからこそできるという部分もあるが、そこは事業継承者としての自覚・覚悟をしっかりと心に刻んでおられるからだと推測される。こうした変化を一時的なものと考えるのではなく「変化できるものだけが生き残る」というダーウィンの進化論に通じる変化として捉えていくことが必要になっている。

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