Independents ― 事業継承者の起業家精神

地の利を活かし、ワンストップ加工に対応

JMCでマインドが変化―持ち前の度胸と粘り強さで新規開拓

株式会社 タニテクニカル 取締役専務・統括本部長 谷口 武 氏

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画像:地の利を活かし、ワンストップ加工に対応2台目のEML(奥)と、2015年11月に導入したACIES-2515T

東海豪雨がきっかけで入社

画像:地の利を活かし、ワンストップ加工に対応谷口武氏

「父や母が家で仕事の話をすることはほとんどなく、私はまったく苦労知らずのまま育ってきました」―谷口武専務は開口一番、語り始めた。

父親である谷口啓(あきら)社長が会社勤めののち、念願の独立を果たしたのは1990年。それ以来、バブル崩壊後の不況の中、少しずつ信頼を積み重ね、苦節10年―2000年に㈲タニテクニカルを設立した。

1979年生まれの谷口専務は、社長が独立した当時11歳。小学2年生から中学3年生まで野球の部活動に没頭していた谷口専務は、親の仕事の苦労など知るよしもなく、多感な時期を過ごした。

「中学生のときに工場でアルバイトをさせてもらいましたが、そのときも世の中の動きや親の仕事の状況などには意識が向かず、ただアルバイト料がほしくて働いていました。『いずれは父の会社に入るのかな』と漠然とは考えていましたが、事業継承のことをはっきりと意識したことはありませんでした。かといってほかに特別やりたいことがあるわけでもなく、学校推薦でほかの製造会社に入社、3年間勤めました。そこで溶接技術は多少なりとも身につきましたが、社員間のコミュニケーションにも関心が向かず、決められた時間、淡々と仕事をこなしているような調子でした」。

転機は2000年9月に発生した東海豪雨だった。同社の工場は浸水し、導入したばかりのパンチングマシンやベンディングマシンといった設備や書類が水に浸かった。しかし谷口社長はわずか3週間で工場を復旧し、その後は海外移転が進む自動車関連から住宅用建材の分野へとシフト、今日の事業基盤を築いた。

「『あのときはもうダメだと思った』と後から社長に聞きました。それがどう影響したのかわかりませんが、その頃に社長から『戻ってこないか』という話があって、2001年に入社しました。その時はもちろん事業継承の話はありませんでしたし、私もまったく考えていませんでした。東海豪雨のことも目の当たりにしていないせいか、もうひとつ現実感がありませんでした」。

「今にしてみればずいぶん薄情だと思いますが、逆に言えば、社長はそのくらい仕事のことを話さない人でした。『会社を継げ』と言われたことは一度もありません。仕事のうえでも、何かを教わったり口出しされたりした記憶はありません。九州男児ならではの教育方針なのでしょうか、失敗も成功も自分で体験して学べというスタンスで、一切を任せてくれました」。

  • 画像:地の利を活かし、ワンストップ加工に対応愛知県豊田市にある㈱タニテクニカル
  • 画像:地の利を活かし、ワンストップ加工に対応隣地1,200坪の敷地に建坪700坪の第2工場を建設中

JMCがマインドの変化をもたらす

21歳で入社した谷口専務は、曲げ、レーザ、機械加工、溶接、プログラムと現場の作業をひととおり経験していった。

「広く浅くではありますが、全工程を経験したことは今になって大きな強みになっています。今の私は営業の責任者ですが、全工程を把握できていることで、お客さまの疑問にもその場で即答でき、対等に会話できます」。

入社3年目の2004年には、職業訓練法人アマダスクールが主催するJMC(経営後継者育成講座)を受講した。

「JMC受講は社長のすすめに従ったかたちで、私自身の意思ではありませんでした。それまでの私は単なる現場の一作業員で、経営には一歩も踏み入れていなかった。知識も経験もないまま受講したので、まったくの未知の世界でした。初めて聞く言葉ばかりで、終始戸惑いながら、腰が引けた状態で受講していたことを覚えています。今思えば、もう少し経営に関する意識づけができてから受講した方が、実になったのかもしれません」。

「振り返ってみると、マネジメントゲームなどで経営の疑似体験ができたのは良かったと思います。実際には経営判断を誤ったら大変なことになってしまいますが、あの場ではいくら失敗しても構わない。しかもほかの受講生の方々のやりとりをみて、こういう考え方もあるんだな―と知ることができました」。

JMCを修了した後は再び現場に戻ったため、JMCで得た知識や経験をすぐに活かす機会はなかった。しかし谷口専務はそれ以来、毎朝誰よりも早く出社し、新聞を読むのが日課になったという。

「JMCを受講したことがきっかけになって、経済全体の動きや流れに意識が向くようになりました。この習慣は今も変わらず、12年間ずっと続けています。そうしていくうちに、事業継承者としての自覚も少しずつ芽生えていったのだと思います。私にとってのJMCは、実務というよりも、こうしたマインドの変化のきっかけを与えてくれたことが大きかったと思います」。

  • 画像:地の利を活かし、ワンストップ加工に対応曲げ工程にはHDS-1703NT+Bi-Jをはじめ9台のネットワーク対応型ベンディングマシンが並ぶ
  • 画像:地の利を活かし、ワンストップ加工に対応工作機械用の制御盤筐体

会社情報

会社名
株式会社 タニテクニカル
代表取締役
谷口 啓(あきら)
取締役専務
谷口 武
住所
愛知県豊田市本町寺田34
電話
0565-42-2266
設立
2000年(1990年創業)
従業員数
60名
事業内容
製缶一式・機械加工一式・精密板金、ステンレス・アルミ加工、制御盤・その他筐体などの製作
URL
http://www.tanitech.co.jp/

つづきは本誌2016年10月号でご購読下さい。

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