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褒めて人を動かす ― 山本五十六に学ぶ

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広島県呉市を訪問した時、「大和ミュージアム」(呉市海事歴史記念館)や「山本五十六記念館」などを訪ねた。

大和ミュージアムには、1/10スケールの戦艦「大和」が展示され、大型資料展示室には零式艦上戦闘機や人間魚雷「回天」、特殊潜航艇「海龍」などの本物が展示されている。

お勧めなのは山本五十六記念館。ご存知のように山本五十六は開戦にはあくまでも反対だった。「この身滅ぼすべし、この志(こころざし)奪うべからず」と、わが身の危険を省みず、日独伊三国同盟に断固反対した。そして開戦が避けられなくなってもなお、「是非やれといわれれば、初めの半年や1年は、ずいぶん暴れてごらんにいれます。しかし2年、3年となっては、全く確信は持てません。三国同盟ができたのは致し方ないが、かくなった上は、日米戦争の回避に極力ご努力を願いたいと思います」と進言し続けていた。人々を愛し、郷土を愛し、慈愛の心を強く持っていたからこそ、その意に反し連合艦隊司令長官として未曽有の大戦争の指揮を執ったのだろう。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」。

「実年者は、今どきの若い者などということを絶対に言うな。なぜなら、われわれ実年者が若かった時に同じことを言われたはずだ。今どきの若者は全くしょうがない、年長者に対して礼儀を知らぬ、道で会っても挨拶もしない、いったい日本はどうなるのだ、などと言われたものだ。その若者が、こうして年を取ったまでだ。だから、実年者は若者が何をしたか、などと言うな。何ができるか、とその可能性を発見してやってくれ」。

山本五十六には数々の名言があるが、私はこの2つを、生涯の指針として肝に銘じている。

「やってみせ」は20代前半の記者時代に赴任先の福井の機械メーカーの副社長を取材したときに教えていただいた。ヒトを育てることの難しさにぶつかった時、頭をもたげてくる。

そして「実年者」はそれから十数年後に取材した新潟県長岡市の経営者から、儒学者の家系に生まれた高野五十六が旧長岡藩家老・山本帯刀家を継ぎ、旧会津藩士族の娘と結婚した気骨のある人だった、ということを教えていただき、その際に「今どきの若い者は、と世相を語る風潮があるが、山本五十六がこんな言葉を残している」と教えていただいた。

戊辰戦争で朝敵となった旧長岡藩や旧会津藩と因縁のある家系に育ちながら、公明正大な世界観を備え、国を憂う心を持ちながら、凛とした生き方には学ぶものが多い。そして今だからこそ、こうした人物が残してきた偉業や言葉を大切にしなければならないと思う。

取材をしていても人材育成に悩む経営者は多い。そして大概の悩みが「今時の若い人は欲がなくて、車も結婚も、そして家さえほしがらない。無理して対価を得ようとしないで、言われたことしかしない」という言葉である。たしかに指摘される傾向があるのは否めないが、だからと言って、それで諦めてしまったら社員はいつまでも育たない。

最近取材先で耳にするのが「人材=人財」という考え。いくら最新設備を導入してもそれを使いこなすのは人間。作業者のモラルやモチベーションに問題があれば、設備の能力をフルに活用することはできない。「主役は作業者」という意識がかなり芽生えている。そうしたことを継続するためにも、山本五十六の名言を改めてかみしめていただきたい。

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