板金論壇

「諸行無常の響き」で目覚めよ

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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おごれる人も久しからず

『平家物語』の冒頭に、以下の有名な文章がつづられているのは、みなさんもご存知だと思います。

「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂には滅びぬ、偏(ひとえ)に風の前の塵に同じ」。

古典の講義ではありませんが、その意味するところは「祇園精舎の鐘の音には、『諸行無常』 ― すなわち、この世のすべての現象は絶えず変化していくものだという響きがある。どんなに勢いが盛んな者でも必ず衰えるものである。世に栄え得意になっている者も、その栄えはずっとは続かず、長いスパンで見てみると、まるで『春の夜の夢』のように短く儚いものである。勢いが盛んで激しい者も、結局は滅び去り、まるで風に吹き飛ばされる塵と同じようである」といわれています。

シャープや東芝に“おごり”がなかったか

業界で40年この仕事をしてくると、企業の大小を問わず、企業の栄枯盛衰は何十例と見て来ています。特にリーマンショック後の縮小、撤退、譲渡とずいぶん寂しい思いをしたものです。

みなさんも経営危機に陥ったシャープに対して、台湾のEMS企業、鴻海(ホンハイ)精密工業(フォックスコン)が再建に乗り出し、株式の60%を取得。実質的に鴻海グループ企業に組み込まれた記憶は鮮明でしょう。以前は「亀山ブランド」と称賛されたシャープの液晶技術は、品質・価格でも世界トップといわれていました。著名人を起用したCMも記憶に新しい。それが台湾・韓国・中国系企業がいっせいに液晶市場に参入すると、亀山ブランドのロイヤリティーは雲散霧消、亀山工場も2009年に第1工場を中国系企業に、第2工場も2012年に堺工場をホンハイが買収した際に、一緒に売却される予定だったそうですが、それは思いとどまり、第2工場は現在も液晶のシャープを支える基幹工場となっています。それにしても新工場竣工後たったの6年で閉鎖、売却されてしまうとは想像もされていませんでした。真に「春の夢のごとし」の体(てい)でした。

また、不正会計で3人のトップ経営陣が退任、明るみになった赤字を穴埋めするため、事業の統廃合に追い込まれた東芝もその一例でしょう。医用画像診断装置の分野で日立製作所と国内トップを激しく争っていた東芝グループの優良企業、東芝メディカルシステムズは全株式をキヤノンに売却、その売却益で赤字を埋めるといわれています。結果として「東芝メディカル」という社名も霧消してしまいます。

同社の主力工場である那須工場を何度も訪れ、取材させていただいた者としては、工場そのものが「風で吹き飛ばされる塵」のように見えてしまいます。いずれの例も経営陣におごりがあったのでしょう。「たけき者も遂には滅びぬ」です。

つづきは本誌2016年5月号でご購読下さい。

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