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他山の石を以て玉を攻むべし

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東芝の不適切会計問題で、1,562億円の利益の水増しを指摘した第三者委員会の調査報告書の提出を受け、同社は歴代3名の社長が引責辞任することになった。このニュースは、経済界に大きな衝撃を与えている。報告書では歴代トップの関与のもとで、組織的な利益水増しが行われていたことが明らかにされており、歴代トップの辞任にとどまらず、報告書の「取締役や執行役がそれぞれの関与の程度や、果たした役割に応じた責任を自覚することが求められるとともに、人事上の措置が適切に行われることが必要」という指摘に基づいた措置もとられた。

過去にも、上場会社で経営トップによって不適切会計や粉飾決算が指示されたケースはあるが、東芝のような日本のトップ企業で、歴代3人の社長が関与した不適切会計は例がない。この不適切会計が粉飾決算に当たるかに関しては、第三者委員会は指摘していないが、結果を見れば粉飾決算を疑われても不思議ではない。しかも取締役を含めたスタッフも事実を知りながら、見て見ぬふりをしていたという報道を聞くにつけ、企業のコンプライアンス、コーポレートガバナンスに対する不信を強める結果となった。

特に、元社長の相談役と、前社長の副会長は2人とも経団連の役員を務めるとともに、安倍政権下で経済財政諮問会議や産業競争力会議のメンバーを歴任、一時期は経団連会長候補ともいわれていた大物財界人。それだけに、財界人の良識すら疑われる結果となり、国際的にも日本の経営者への信頼を失墜させたともいえる。この問題は、本稿が掲載されるまでに、さらに詳細な内容が明らかになっているだろうが、大変残念な結果となってしまった。

歴代の東芝社長には「ミスター合理化」「荒法師」「怒号敏夫」「行革の鬼」また、猛烈な働きぶりから「土光タービン」と呼ばれた土光(どこう)敏夫氏がおられた。東芝再建のために社長に就任されると、会社は一丸となってムダを排し、利益を追求していった。自身の私生活は、例えば朝食には味噌汁とめざしというようにつつましいもので、その映像がテレビで放送されたこともあって、多くの市井の人々が親近感を抱いた。会社は自身の私利私欲のためにあるのではないということを広く知らしめた。庶民的な土光氏に、にわかファンが増えたことも思い出される。

土光氏の発言には「自分の火種には、自分で火をつけて燃え上がらせよう」とか、「この変化の激しい時代に固定したものの考え方は許されない。スローガンは逆に新しいものの考え方をはばむ。もしつくるなら、毎日変わる社是社訓をつくるべきだ」―など、変化への対応力が問われる現在の経営者にとっても指針となる名言がたくさんある。その土光氏がこの失態を知ったら、なんと思われるだろうか。「長いものには巻かれろ」といった社風が東芝全体に蔓延していたということであれば、土光さんが再建を果たした東芝の社風がいつの間に消えてしまったのか、残念でならない。

土光語録には、こんな言葉もある。「組織はダイナミック(動的)でなければならない。たとえばルールをつくっても、はじめたときは新鮮味があるが、ちょっとたつとマンネリズムになってしまう。私は、きょう決めたことでも翌日になると必ずいくらかのマンネリズムが生じているんだといっている。企業は絶えずダイナミックでなければならない。清水(しみず)でも動かなければ腐るといわれる。組織体は絶えずゆさぶりをかけておく必要があると思う」。

業界のみなさんも今回の事件を「他山の石を以て玉を攻むべし」ではありませんが、自らの経営に役立たせるべきだと思います。

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