視点

社員教育に大切な“インプレッション”

LINEで送る
Pocket

7月は文月(ふみづき・ふづき)。物書きを生業とする私にとっては身が引き締まる月でもあります。

私が新聞社に入社した頃は先輩記者に「記者は書いてなんぼ。掲載される、されないにかかわらず、何のネタでも書くことが大切」と口酸っぱく言われました。そして5W1Hで簡単明瞭に事実を伝えることを勉強するために、毎日先輩記者が執筆して掲載された記事を、自分ならこんな風にまとめるが、と15行の原稿用紙が消しゴムで薄黒くなるまでいろいろに書き比べました。「習うより慣れろ」―教わるよりも、自分の中でもっとぴったりした、もっと易しい言い回しはないか、考えては崩し、また組み立ててと、試行錯誤しました。

当時はワープロやパソコンもなく、鉛筆たこができました。新聞記者から、月刊誌の取材・編集に関わるようになっても、取材した記事はできるだけ早く原稿にまとめることを心がけるようにしています。取材したときの感動―“インプレッション”を忘れないうちに、その思いを読者に伝えたいと思うからです。

しかし最近はICレコーダーなどの小道具が充実し、取材しても締切日に間に合えばと、のんびりと原稿を書く若い記者が増えてきました。録音された当時のやり取りを聞き直し原稿をまとめたとしても、取材時の驚きや感動が希薄になってしまう傾向があると思います。

「鉄は熱いうちに打て」といわれますが、取材原稿も取材したときのインプレッションが消えないうちに書き上げるのが大切だと思います。

ところで、取材者の思い入れやインプレッションということと同様に、モノづくりの現場の社員教育にも同じようなことがあるようです。入社して初めて材料や機械に触れた時の印象や感動を大切にして育成していく必要があると思います。

以前はモノづくりの現場も先輩が手を止めて新人に教える、ということは少なかった。見よう見まねで覚えるしかありませんでした。しかし今はデジタル化され、先輩が作成した加工データを呼び出し加工すれば、新入社員でも先輩と同じ品質の製品をつくることが可能になりました。そのことに慣れてしまうと、自分で考えることを止め、指示されたとおりに加工するだけになってしまい、図面や先輩に確認することもなくなってしまいます。その結果、図面の読解力が乏しいまま、データがある仕事しかできない作業者になってしまう。初めて製品をつくった時の喜びや達成感を味わった社員は、取り組み方が違ってくると感じます。

最近、お会いする経営者が一様に話されるのが、言い尽くされた言葉ですが「モノづくりはヒトづくり」。指示されたことだけを行う作業者ではなく、「疑問を持ち、改善を考えることのできる社員を育てたい」と話します。

ITの加速でモノづくりプロセスのデジタル化が進み、現場はデータで加工するようになっており、データをつくるヒト(エンジニア)と、そのデータで作業するヒト(ワーカー)に分かれる傾向が見受けられるようになっています。生産性を考えるとその方が効率が良いように見えますが、応用が利かなくなります。設計提案やVA/VE提案が求められて能力にも限界が生じます。

そこで、現場で加工する作業者の力量―「現場力」が重要になります。そのためにも現場には指示されたことだけをやるワーカーではなく、課題解決にも対応できるテクニシャン(技能者)が必要になっています。多くの経営者はそう考えるようになっています。テクニシャンを育成するためにも、新入社員として初めて現場体験するときの感動――インプレッションが共有できる場を多く持つことが大切だと思います。そしてその感動をさらに進化させるためには、自分たちの仕事が社会で役に立っていることを認識することだと思います。

LINEで送る
Pocket

タグ

  • タグはまだ登録されていません。

関連記事

  • 関連記事はありません。

視点記事一覧はこちらから