視点

古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます

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歓送迎会の2次会で数十年ぶりに鶴田浩二の「傷だらけの人生」を唄いました。42年間勤められて退職される同僚のありようを自分の姿に重ね合わせる中で自然に選曲していました。

「古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます。どこに新しいものがございましょう。生まれた土地は荒れ放題、今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか」―冒頭の台詞は、この歌がヒットした1970年代前半の世相と、戦争体験を持つ俳優、鶴田浩二の心模様を見事に描き出しています。

ところで、唄うにつれて歌詞にもあるような「古い奴ほど新しいものを欲しがる」というものの、今の世の中のどこに新しいモノがあるのだろうか、という思いに至りました。

物質的には新商品がめまぐるしく発表され、ドンドン発売されます。それは私たちのビジネスの世界でも同じで、マザーマシンと呼ばれる工作機械もIT化によって自動化・省力化が進み、今やM2M(Machine to Machine)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)によって、タブレット端末やスマートフォンからいつでも、どこにいても、つながります。稼働状況をリアルタイムに確認し、受注した製品の加工がいつ完了して、いつまでにお客さまに納品されるか、全工程が“見える化”されるようになっています。また、複雑な加工データを製品の3次元モデルから自動作成して、加工スケジュールに合わせて自動的にデータを加工マシンが呼び出し、材料をロボットが取りにいって機械に着脱、加工後の製品とスクラップ(切粉)をきっちりと区分けし、それぞれの工程へ分別されるようになり、ヒトが介在していた重労働が軽減されてきました。

しかも、企業間、工場間の様々な情報を「ビッグデータ」として蓄積し、そこから必要なデータを抽出して、生産活動に活用することもできるようになってきました。ヒトの手を介さずに、こうしたことができるということはすばらしいことですが、できあがった製品の品質を追求すると、丸いモノはどこまでも丸く、真っ直ぐなモノはどこまでも真っ直ぐでなければいけません。外観品質はキズのない見栄えの良いものでなければなりません。そしてこの品質・精度を出すのは最終的には機械と工具、被加工材の静的・動的精度で決まってきます。

要はベースがきちんとできていないと自動化・ネットワーク化にも対応できないということになります。このことは今までも、そしてこれからも変わりはしない。ベースをしっかりつくり込まないと良いモノはできないということになります。

そういう意味では、どこに新しいものがあるのかと問うたとしても、マザーマシンと呼ばれる加工機械はお化粧の仕方や味つけは変わったけれど、本質は何も変わっていないということになります。そして加工に際して深く関わるのが作業者である“人”です。本質的には人のありようが一番大切ということになってきます。

改めて、歓送会に集まった人々のようなネットワークが重要だと思いました。最近世相では、人の心が荒んできています。「生まれた土地が荒れ放題」というのではなく、そこで生活する「人の心が荒れ放題」ともいえます。大人を見ても子どもを見ても心は「真っ暗闇じゃござんせんか」というのが偽らざる現実だと思います。だからこそ、人を育てることが大切です。

久しぶりに鶴田浩二の歌を唄わせていただき、説教じみた視点になってしまいました。自戒でもあります。

去りゆく人、新しく意欲を持って入って来られる人、悲喜こもごもの“新しい年度”の始まりです。

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